馬券の税金問題でゾンビのような執念を見せる国税庁。無理筋への、最後の一手。


先月10日、最高裁は、多額の馬券の払戻金に係る脱税事件に関連して、馬券の払戻金を一時所得ではなく雑所得と認定しうる場合があるとの判断を示しました。

多くのメディアで、馬券の経費が認定されたと報道されていましたので、ご存知の方も多いのではないかと思います。一時所得では外れ馬券は絶対に経費認定されませんので、FX等と同様の所得区分である雑所得として扱われるかどうかというのは、外れ馬券を経費認定できるかどうかの最も重要なポイントです。

■馬券の所得区分についての最高裁の判断
この事件の被告男性のケースの所得区分について、最高裁は以下のように判断の根拠を示しています。

以上によれば,被告人が馬券を自動的に購入するソフトを使用して独自の条件設定と計算式に基づいてインターネットを介して長期間にわたり多数回かつ頻繁に個々の馬券の的中に着目しない網羅的な購入をして当たり馬券の払戻金を得ることにより多額の利益を恒常的に上げ,一連の馬券の購入が一体の経済活動の実態を有するといえるなどの本件事実関係の下では,払戻金は営利を目的とする継続的行為から生じた所得として所得税法上の一時所得ではなく雑所得に当たるとした原判断は正当である。

『平成26年(あ)第948号 所得税法違反被告事件平成27年3月10日 第三小法廷判決判決文』より抜粋。)

判決文の中で下線付きで記載されたこの箇所は、判決の中で最も重要な部分です。この中で、最高裁は以下の二つの判断をしています。

(a)「馬券を自動的に購入するソフトを使用して(中略)一体の経済活動の実態を有するといえるなど」の特徴を有する被告人男性の馬券購入は、「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」であること。
(b)「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」であるとみなされる場合は、馬券購入は雑所得に分類されるべきであること。

すなわち、(a)が本件固有のケースについての判断であるのに対し、(b)は馬券購入一般に関する判断となっています。

この確定判決を受け、国税庁には、最高裁が示した(2)の馬券購入一般について雑所得となる要件「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」について、その基準を明らかにすることが求められます。

この点、国税庁の対応は迅速でした。

最高裁判決の約二週間後、3月25日に、『「所得税基本通達の制定について」(法令解釈通達)の一部改正(案)(競馬の馬券の払戻金に係る所得区分)に対する意見公募手続』(いわゆるパブリックコメント)を開始したのです。

募集期間は30日。今週金曜4月24に期限が迫っています。

■何度倒されても起き上がるゾンビのような国税庁の執念
4月20日現在、パブリックコメント募集中の通達改正案を見てみると、以下のように書かれています。

法第34条((一時所得))関係
(一時所得の例示)
34-1 次に掲げるようなものに係る所得は、一時所得に該当する。
(中略)
(2) 競馬の馬券の払戻金、競輪の車券の払戻金等(営利を目的とする継続的行為から生じたものを除く。)
(注)1 馬券を自動的に購入するソフトウェアを使用して独自の条件設定と計算式に基づいてインターネットを介して長期間にわたり多数回かつ頻繁に個々の馬券の的中に着目しない網羅的な購入をして当たり馬券の払戻金を得ることにより多額の利益を恒常的に上げ、一連の馬券の購入が一体の経済活動の実態を有することが客観的に明らかである場合の競馬の馬券の払戻金に係る所得は、営利を目的とする継続的行為から生じた所得として雑所得に該当する。
2 上記(注)1以外の場合の競馬の馬券の払戻金に係る所得は、一時所得に該当することに留意する。
(略)

(『「所得税基本通達の制定について」(法令解釈通達)の一部改正(案)(競馬の馬券の払戻金に係る所得区分)に対する意見公募手続 意見公募要領【別紙】改正案』より抜粋。)

改正前は「(2)競馬の馬券の払戻金、競輪の車券の払戻金等」と一言あっただけですので、字数だけ見れば大幅改正のようですが、実際のところどうなのでしょうか。

(2)の主文については、「(営利を目的とする継続的行為から生じたものを除く。)」との但し書きがついたので、一見最高裁判決を真摯に受け止めたようにも見えなくもありません。しかし、注意書きを読むと、そんなつもりは更々ないことがよく分かります。

驚くことに、(注)1の文章は、上の判決文で(a)の個別ケースについて判断した際の文言をほぼそのまま持ってきたものです。そして、続く(注)2で、それ以外の場合は雑所得ではなく一時所得と決めつけているのです。判決文の文言をほぼそのまま採用しているからと言って、判決の主旨に真摯に対応していることにはならないことに注意しなくてはなりません。

ここで国税庁が主張しているロジックは、例えば、痴漢冤罪事件で「被告人は乗車中ずっと両手を上げていたので有罪ではない」との判決が出た後に警察が「じゃあ、ずっと両手を上げないやつは有罪だ」などと無茶な取締りをやるようなものです。

或いは、これもありえない例えですが、最高裁が「この車はトヨタなので日本車だ」と判断した後に、「トヨタは日本車、それ以外は日本車じゃない」と決めるようなものだと言えば、如何に無茶苦茶なのかが分かるのではないでしょうか。

国税庁には、トヨタだけじゃなく、日産やホンダも日本車だということを、ぜひとも考えていただきたいと思います。

■誰でも参加できるパブリックコメント
各種法案や通達案等に公衆から意見を募るのがパブリックコメント制度(パブコメ)です。日本の法制度設計に直接意見を言えるチャンスが、誰にでもあるのです。

ただ、誰でも意見を提出できるとは言え、普通は何を書いて良いのかも分からないことが多いと思います。

でも、今回の馬券の税金の問題はどうでしょうか? 競馬ファンであれば身近な問題ですし、その他の一般の方にとっても、比較的とっつきやすいトピックではないかと思うのですが。

これを機に、パブコメ・デビューを飾ってみるのも良いのでは?

パブリックコメントはこちらから。期限は2015年4月24日です。

私自身、これまで個人でパブコメしたことはありませんでしたが、今回は一言言わせてもらおうかなと考えています。

さすがにこれはちょっと酷いんじゃないですか、と。

以下の記事もぜひ参考にしてみてください。
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■まとめ
・「馬券の税金」最高裁判決に対する国税庁の最後の一手、通達改正案がパブコメ中です。
・通達改正案は、最高裁判決を真摯に受け止めていないように思われます。
・関心のある方はぜひパブコメに参加してみてください。