「馬券の税金」判決の影響は? ホリエモンとカジノ専門家のどちらが正しいか、JRA馬主の証券アナリストが解説します。


先日、5億7千万円を脱税したとして馬券の払戻しを申告しなかった会社員男性を大阪国税局が所得税法違反で告発した件で、最高裁が弁論を開かないまま判決期日を3月10日に指定したとの報道がありました。高裁判決のまま確定するのは確実で、競馬界にとっては大ニュースです。

この報道を受けて、ホリエモンこと堀江貴文氏が、「JRAはホクホクだな」とツイートしたところ、カジノ専門家として知られる木曽崇氏が、自身のブログで「いやいやいや」と反論。

どちらの意見も分かるような気もするのですが、「でも、どちらもやっぱりちょっと間違っているよなぁ」というのが、私の見方です。

■堀江氏の意見について
堀江氏の意見は、いつものようにシンプルです。シンプルなだけに、ちょっと足りないように思います。

画期的。これで自動馬券売買ソフトで回収率100%超えるものが堂々と作れる。JRAはホクホクだな

(堀江貴文氏ツイッターアカウント『堀江貴文(Takafumi Horie)@takapon_jp』ツイート(2/18付)より抜粋。)

おそらく、皆が安心して高回収率のソフト(以下、必勝ソフト)で買えるようになれば、売上も伸びて、JRAもホクホクだろうということなのだと思います。しかし、記事の後半で説明しますが、必勝ソフトが市場に投入されても、それだけではそれほど大きく市場が拡大することはないでしょう。

ホクホクではなく、ソコソコくらいなのだと思います。

また、外れ馬券の経費認定が最高裁で確定すると、国税からJRAに対し、一時所得と雑所得の線引きルールを含む、適切かつ効果的に税金を徴収可能とする仕組みの検討や、徴収インフラの開発、定期的な投票データの徴求等、様々なリクエストが行われる可能性があります。自分がJRAの担当者なら、そのあたりをちょっと想像するだけで、もうウンザリでしょう。

さらに、もしもそうした税金を効果的に徴収または捕捉するための仕組みが実際に導入されることになれば、競馬市場が早晩縮小していくことは避けられないかもしれません。

■木曽氏の意見について
木曽氏の主張の大前提は、払戻率が一定の中で、一部マニアが勝ち易くなると、その分、ほかの一般の方が負け易い市場になるということです。

いやいやいや、それは非常に短期的かつ表層的な分析であって、むしろ中長期的には今回の判決はJRA、ひいては競馬業界全体にとって全くホクホクの話ではありません。今回の判決によって、以下のような事が起こります。
分析ソフトを使う人間が儲ける=使わない一般プレイヤーが負ける
→一般プレイヤーは早期退場+プレイヤー全体が徐々にマニア化
→カモとなる一般プレイヤーが居なくなるのでマニア層も収益性悪化
→マニア市場も縮小

(木曽崇氏ブログ『カジノ合法化に関する100の質問:ホリエモン「JRAはホクホク」、イヤそれは違う』(2/19付)より抜粋。)

木曽氏はまた、そうしたマニアが全国の公営競技場で同様に稼ぎまくることで、売上は一時的に複利的に大きくなるものの、一般の市場参加者の資金がマニアに吸い上げられるため、ギャンブル市場の資金総量が急速に減り、幾何級数的に市場が縮小すると説明されています。

これらの主張のうち、一部の人が勝ち易くなれば他の人が負け易くなるという点には同意します。しかし、カジノとは異なり、大金を持った合理的で優秀な参加者が、他の能力的に劣る参加者から資金を完全に吸い上げることは、馬券市場の場合は不可能と言ってよいでしょう。

馬券市場における必勝ソフトと言うと、「レースごとの勝ち馬や上位馬を当てるソフト」と思いがちですが、じつはそれは正しくありません。

馬券市場で目指されるのは、単に買い目を当てることではなく、買い目を当てた結果、賭け金以上の払い戻しを受けることです。必勝ソフトに必要なのは、各馬が勝つ確率を予測し、それを競馬市場における「価格」である払戻しオッズと比較し、価格的にオイシイものをピックアップする機能です。

割安のものを狙って買うというのは、近所のスーパーでも、ブランド品のセールでも、競馬でも、何ら変わることのない当然の戦略です。

そして、自らの馬券購入によって市場価格を割高にしないようにするためには、市場の中で自らはマイナーな存在である必要があるのです。

ここがカジノとの決定的な違いなのだと思います。

■必勝ソフトの投入前後でどう変わるか(ややテクニカル)
図表は、簡単なモデルを使って、必勝ソフト投入前と投入後でどのように変わるかをシミュレーションしたものです。ここでは勝ち馬を当てる単勝馬券を想定しています。払戻し率は80%です。

この簡易モデルでは、それぞれの買い目(馬)について、潜在的な「勝つ確率」と、それを市場が評価した結果の「売上」及び「売上シェア」、売上シェアに従い変動する価格である「オッズ」、「オッズ」と「勝つ確率」の掛け算で計算される「(回収率の)期待値」を考えています。また、「勝つ確率」と必勝ソフト投入前の「売上」、「売上シェア」については所与とします。

実際のレースでは期待値がプラス(100%以上)の馬がいない場合や、複数いる場合もありますが、期待値がプラスになるくらいに実力と人気が乖離する馬というのは、全体の中では少数派です。ここではA馬一頭だけが該当します。

A馬を買っている人は勝ち組、他の馬を買っている人は負け組です。通常、割安な買い目を平均的に当てるには、多くの人とは異なる視点や分析が必要となります。

ここで、「勝つ確率」を知ることのできる仮想の必勝ソフトを投入するとします。必勝ソフトを使って馬券を購入する人たちは、必ず期待値がプラスのA馬の馬券を、期待値がプラスの状態を維持しうる範囲で購入します。ここでは、期待値が100%になるまで買い進めると仮定しています。

必勝ソフト利用者が馬券を購入するタイミングは、締切直前です。その時点までに既存購入者による市場価格(投入前オッズ)が形成済みです。(注1)

図表でソフト投入後の状態を確認すると、追加分の影響でA馬以外のオッズが上昇し、期待値が高まっていることが分かります。オイシかったA馬については、ソフト投入によって旨みが激減です。

簡易モデルで考えてみて分かったのは、必勝ソフトを投入することで割を食うのは、従来から何らかの方法で割安の馬をキッチリ狙えていた勝ち組の人たちだということです。全体としては、平均的には期待値は微減するものの、これまでも負け組だった人たちにはそれほど大きな影響はなさそうです。

つまり、必勝ソフトが投入されると、勝ち組の裾野が増える一方で、増えた分だけそれぞれの儲けの幅は薄くなるという方向での変化が予想されるのです。

このとき競馬市場全体の売上は、表のソフト投入前後の売上の差で見たように、やや増くらいが直接的な影響なのだろうと思います。

馬券と競馬等については、以下の記事も参考にしてください。
■競馬は投資になりうるのか検証してみた: 二年間全レース買って馬券収支がプラスだった事例から。
■ジャパンカップG1の時給は60億円!? 馬主という仕事の意外すぎる真実。
■有馬記念から考える「にっちもさっちもいかない状況」の克服方法。
■海外馬券の販売開始か?日本での馬券売上のインパクトとマネーロンダリングの可能性。
■借金返済のために風俗店で働く女子学生の問題が、本当は奨学金のせいではない明らかな理由。

■まとめ
・馬券を継続的に買う場合に外れ馬券も経費に算入できるとの判断が、最高裁によりなされようとしています。
・雑所得と一時所得の線引きのルール検討や、馬券購入履歴情報の提供、インフラ整備等が、JRAに対し求められる可能性があります。
・必勝ソフトが投入されてもっとも割を食うのは、もともと勝ち組だった人たちです。
・負け組(もともと期待値の低い買い目を買っていた人たち)には、大きな悪影響はなさそうです。
・必勝ソフトの馬券売上への影響は、おそらく限定的です。ホクホクではなく、ソコソコくらいでしょう。

(注1)実際の馬券市場でも、締切に近づくにつれて売上シェアが勝率に近づく傾向があります。

デリバティブで損失を出したあげく金融機関を訴える「名門大学」で金融教育が必要なのは、学生だけじゃない。


昨日の記事では映画&小説「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」に関連して、文芸作品の「デリバティブ・ワーク(二次創作)」にかかわるトリビアを紹介しましたが、今回は同じ「デリバティブ」でも金融のほうの「デリバティブ」について少々。

以下は、朝日新聞DIGITALが2月14日に配信した『デリバティブで損失、南山学園が提訴 ドイツ銀などを』という記事の抜粋です。

同学園はドイツ証券の勧誘を受けて2005年10月~12年11月、ドイツ銀行と契約したが、08年のリーマン・ショックで79億7千万円の損失が発生。請求額には弁護士費用などを加えた。同学園は「公の教育を担う学校法人にリスクの高い商品を勧めた上、リスクの説明が不十分だった」と主張している。

同学園は05~12年、証券6社とのデリバティブ取引契約による資産運用で総額229億円の損失を出した。昨年9~10月にUBS証券と野村証券を相手取り計約88億4千万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴。別の1社とは和解が成立した。残る2社については同種の訴訟の可否を検討しているという。

南山学園は、名前が出ている4社の他に3社と同様の係争があったと記事は伝えており、同学園の主張が正しければ、これらの7社すべてが同学園の投資の適合性に合わない商品について、適切な説明を行わずに勧誘したということになります。

まともな金融機関7社が7社とも法令違反するなんて、そんなことがあるのでしょうか?

■リスクの高い商品を勧めた?説明が不十分?
金融商品取引法40条は、金融機関に対し、顧客の知識、経験及び財産の状況、金融商品取引を締結する目的に照らし、顧客に適合しない勧誘を行ってはならないと規定しています。

これを適合性の原則と言い、普通の金融機関の普通の営業職であれば、自らリスクをとるようなことにはなりたくないので、投資勧奨前に必ず適合性の確認を行うでしょう。

南山学園の場合は、複数年にわたり複数の金融機関との間でデリバティブ取引を行ってきたわけなので、初期の一定期間はともかく、金融機関から見て知識や経験が足りないようには見えなかっただろうなと思います。

また、学内に経済や経営が専門の研究者が何人もいることからも、一般の人たちとは違ってリスク性商品も大丈夫だろうという判断があったのかもしれません。

いずれにしても、7社が7社とも同学園によるデリバティブ投資に適合性があると考えたというのは、間違いないところでしょう。

リスクの説明が不十分という点についても、やはり7社が7社とも誤った商品説明をしてしまうという状況は、正直考えにくいと思います。

また、学校教職員の金融リテラシーがじつはあまり高くないらしいという話はたびたび聞くのですが、博士後期課程まで備える経済学部と経営学部を有する名門大学が、デリバティブで損失を出しただけでなく、自らを「知識や経験が十分でない」と本当に本気で考えているのであれば、それはそれでちょっと問題があるのではないかという気がします。

大学で「デリバティブにはリスクがつきもの」ということを学ぶべきなのは、じつは学生だけじゃなかった、ということなのでしょうか。

是非、以下の記事も参考にしてください。
■借金返済のために風俗店で働く女子学生の問題が、本当は奨学金のせいではない明らかな理由。
■話題沸騰「正社員制度をなくしたらどうなるか問題」を、ファイナンス論的に考えてみた。 
■ちきりんvsイケダハヤト「通勤手当廃止」論争で語られなかった「住まいの問題」緩和策。
■一年で3回転職したアラフォー女子、年収倍増は幸運だけが理由じゃなかった。 
■海外馬券の販売開始か?日本での馬券売上のインパクトとマネーロンダリングの可能性。

■まとめ

・デリバティブ取引での損失に関連し、名門大学が金融機関を訴えています。
・適合性原則に則った手続きをとったかという点と、十分にリスクの説明をしたかという点が争点です。
・金融機関7社が7社とも法令違反するという状況は、なかなか想像しにくいものです。
・当然ですが、デリバティブにはリスクがつきものです。

「100分中20分が性描写」と話題の女性向け官能恋愛作品がもたらした衝撃と、大人の事情。


全編100分のうち20分が性描写として話題の映画「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」が、バレンタインデーの前日2月13日に世界同時公開されました。いわゆるポルノ映画ではなく、女性をターゲットとした官能恋愛ストーリーです。

■爆発的に売れた原作小説の衝撃
日本では一般にはそれほどではないように思いますが、欧米での注目度は凄まじく、例えば、Googleで”fifty shades of grey”を検索すると、ヒット数は1億件以上にも及びます。”Harry Potter”で1億8000万件くらい(カタカナでは200万件程度)ということを考えると、あのキワドイ内容で1億件というのは驚くべき数字だと言えるでしょう。

この作品は、一般向けメディアだけでなく、ブルームバーグやフォーブス、ウォール・ストリート・ジャーナルといったビジネス・金融向けメディアがこぞって、毎日のように様々な切り口で取り上げているのが特徴的で、例えば、ブルームバーグ・ビジネスのある記事では、映画中に出てくるヘリコプターや車、調度品、洋服等について、ブランドや値段等を一々細かく調べて紹介しています。

グローバルにビジネスをされている方なら、話のネタとして軽い気持ちで観てみるのも良いかもしれません。

なぜこれほど注目されているかと言えば、イギリス人女性作家E.L.ジェームズによる映画の原作三部作が、じつは世界全体の累計販売数1億部を超す大ベストセラーだからです。いったん火がついてからの売れ行きが爆発的だったことから、「ハリー・ポッター」を超えた「史上最速のベストセラー小説」とも呼ばれています。

大雑把に言って、販売部数の半分近くが米国で、3割ほどがイギリスやオーストラリア等ですが、52カ国語に翻訳され、英語圏以外でも、ドイツやフランス、スペイン、ブラジル、オランダなどでミリオンセラーです。最も売れた2012年には、出版元であるランダムハウス社の売上総利益は前年比22.5%増の21億ユーロ、営業利益は前年比75.7%増の3.25億ユーロを記録。フィフティ・シェイズ・バブルに沸いています。

また、ニューヨーク・タイムス等によれば、小説の影響で米国の「大人のおもちゃ」市場が2013年に7.5%も売上げを伸ばすという外部効果もあったと言われており、欧米、特にイギリスや米国では、まさに社会現象と言って良いほどの衝撃をもたらしているのです。

■誕生秘話とこんなに売れたワケ
この原作小説ですが、最初に書かれたときは、プロフェッショナルなメディアで提供されたわけではありませんでした。元々は、一大ブームとなった吸血鬼物語「トワイライト」シリーズ(ステファニー・メイヤー著)のファンサイトに投稿された、「トワイライト」のキャラクターを登場させた二次創作小説でした。

口コミで人気が広まったことから、登場人物をオリジナルのキャラクターに変える等の変更を加え、2011年に小さな出版社から電子書籍として出版。その後、ランダムハウス社傘下の出版会社が権利を買い取り、2012年に改訂版が発売されたとたんに、上述のような爆発的な大ヒットとなったのです。

2012年は、米アマゾン社のジェフ・ベゾス氏が報告書の中で「我々は今まさに、我々がこれまで期待してきたような変化の最中にいる」と語ったように、電子書籍の売上が大きく伸びた年でした。北米だけで見れば、2012年までの3年間の電子書籍市場の成長率(年率)は100%を超え、倍々増で増えた時期です。

前年には電子書籍専用端末がかつてないほど販売されており、また同時期にKindle Fire等の比較的安価なタブレット端末が広く流通したことで、この作品がメイン・ターゲットにする30代以上のマダム層にとっても電子書籍が身近になっていました。

電子書籍は、紙媒体とは異なり、周囲にはどんな本を読んでいるか分かりません。また、購入する際も、書店で購入するときに感じるはずかしい気持ちに耐える必要もありません。シャイな女性でも、めくるめくようなエロティシズムの世界を、誰にも知られずこっそりと楽しめるのです。

実際、フィフティ・シェイズ三部作の売上は50%が電子書籍と言われています。これは、ランダムハウス社全体(但し、その1割はフィフティ・シェイズ)の平均20%と比べ、極めて高い比率です。

フィフティ・シェイズのような性描写の多い女性向け官能恋愛小説というのは、おそらく元々大きなニーズやウォンツがあったのでしょう。社会的な配慮や消費者側の羞恥心などから、従来の紙媒体ではそうした潜在的な消費者にうまくリーチできなかったところを、電子書籍がブレークスルーしたのです。

フィフティ・シェイズのヒットは、著者本人がインタヴュー等で語っているように、口コミという要素が大きかったのだろうと思いますが、本質はそこではありません。

どんな内容であっても消費者に直接リーチできるという電子書籍によるイノベーションが露わにした「普通の女性向けの、性描写が充実した官能恋愛モノ」というほぼ未開拓の消費市場に対し、キッチリ見合う商品をタイムリーに提供できたことが、フィフティ・シェイズが爆発的に売れた本当の理由なのだと思います。

■著作権にかかわる「大人の事情」
「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイで最もスキャンダラスなのは、セックスでもボンデージでもない」と題されたワシントン・ポストの記事は、この作品に著作権問題が生じる可能性を指摘しています。全世界で1億部を超える売上を記録した作品に実際に著作権問題が生じることになれば、本当に大変な事件です。

この小説が元々「トワイライト」の二次創作(デリバティブ・ワーク)であったことは上述の通りですが、記事によれば、作品の著作権に含まれるのは出版権や放映権のような一般にイメージされやすい権利だけでなく、二次創作を誰に許すかという権利も含まれています。

「トワイライト」の著者メイヤーはファンによる二次創作に寛容なので、現実的には問題が生じる可能性は小さいと思われますが、仮に問題となった場合は、いったん二次創作と一般に認知されたものが、登場人物等のマイナーチェンジを行ったことで二次創作ではなくなったという主張が通るかどうか、といったあたりが争点になるのでしょうか。

ちなみに、Turnitinというパクリ検知ツールによって変更前後を比較したところ、89%が一致したとの結果が出たとのことです。

デリバティブにはリスクがつきもの、というオチでした。

是非、以下の記事も参考にしてください。
■借金返済のために風俗店で働く女子学生の問題が、本当は奨学金のせいではない明らかな理由。
 ■話題沸騰「正社員制度をなくしたらどうなるか問題」を、ファイナンス論的に考えてみた。
■ちきりんvsイケダハヤト「通勤手当廃止」論争で語られなかった「住まいの問題」緩和策。
 ■一年で3回転職したアラフォー女子、年収倍増は幸運だけが理由じゃなかった。
 ■海外馬券の販売開始か?日本での馬券売上のインパクトとマネーロンダリングの可能性。

■まとめ
・「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」は、米英などでは社会現象レベルの注目度です。金融・ビジネス系メディアもこぞって取り上げています。
・爆発的に売れた原作小説は、元々は別の人気シリーズの二次創作として誕生しました。
・電子書籍による「イノベーション」と、「本当のニーズ」への「タイムリー」なアプローチが、短期間での驚異的な成功をもたらしました。
・二次創作として誕生したが故に著作権が完全にクリアとは言えない、という見方もあります。
・デリバティブ(二次創作)にはリスクがつきもの、というのは分野をまたいで共通するようです。

北九州市40歳フリーター男性の自己破産で改めて考えてみた、奨学金の問題点。


先日、奨学金の返済困難の事例をセンセーショナルに取り上げた西日本新聞の記事『奨学金返せず自己破産、40歳フリーター 月収14万円「283万円払えない」』(qBiz 西日本新聞経済電子版、2月10日配信)がYahoo!トップに掲載され、話題となっていました。2月12日午後4時半現在で、Facebookのシェアが1.5万件という圧倒的な注目度です。記事によると、

高校、大学時代に借りた奨学金を返還できないとして、北九州市小倉北区のフリーターの男性(40)が福岡地裁小倉支部で自己破産の手続き開始決定を受けたことが分かった。男性には延滞金を含めて約283万円の返還義務があるが、「奨学金のために消費者金融などで借金しても返せない。そもそも多額の金を貸してくれない」と説明。識者は、非正規雇用などで若者の貧困が拡大すれば、今回のように奨学金返還のみでの自己破産申請が増える可能性を指摘している。

とのことなのですが、この40歳フリーター男性の場合は、手取り月収14万円にもかかわらず家族へも仕送りをしているそうで、どう考えても奨学金を返済するだけの余力はありません。それどころか、奨学金返済がなくても普通に生活するのも厳しいはずですので、本来はもっと早い段階で自己破産すべきだったのでしょう。

これは奨学金の問題として捉えるのは適切ではなく、一旦貧困に陥った場合に貧困から抜け出すことが極めて難しいという、硬直した日本の社会システムの根源的問題として認識すべきでしょう。

こうした例で奨学金を悪者にすることは、より重要な社会問題を矮小化することに繋がりかねません。

■奨学金を給付型にすべきという意見はナンセンス
今回のような記事が注目されると、必ずと言ってよいほど「奨学金はそもそも給付型が当然で、貸与型なんておかしい」という意見が散見されるようになります。ですが、こうした意見はあまり合理的とは言えないでしょう。

貸与型奨学金を批判する人の多くは、貸与型奨学金がなければ大学に進学できなかった人がじつは大勢いるだろうということを、もしかすると想像できていないのかもしれません。

あるいは、貸与型奨学金を給付型奨学金に置き換えることが、これまで奨学金を借りられた多くの人から奨学金を取り上げることになるだろうということを、理解されていないのかもしれません。

以前の記事でファイナンス的な見方から結論付けたとおり、奨学金支払困難となる最も大きな問題は、大学教育が4年間の大学進学コストに見合う付加価値を提供できていないという点です。十分な見返りが期待できないような多くのケースでは、給付型奨学金は税金の有効活用になりえません。

国民の負担で給付型とする以上、無駄遣いはできないわけです。(実際はいろいろ無駄遣いしているだろうという批判はありますが。)

一部の「貧しいが優秀な学生」を対象として、授業料を免除し、給付型奨学金を支給するというのは悪くない考えだと思います。

現在でも、東大、京大、東工大等の国立大学では、所得水準や家庭事情等に応じて半額授業料免除や全額授業料免除の制度が適用されます。経済事由の場合は一応「学業優秀」という条件があるようですが、以前は「学業優秀=留年なし」程度でした。給付型奨学金も、じつはいろいろあったりします。

そうした制度を拡充する方向で予算をつけるという動きは、あって然るべきでしょう。

但し、学生でありながら家族を養っているような本当に困難な事情がある場合は、奨学金がどうこう以前に、社会保障全体の問題です。そこはまったく別の問題として考えるべきだと思います。

■減免制度の認知度が低すぎる件
ところで、西日本新聞の記事では減免制度を利用した上で自己破産に至っていますが、実際には、減免制度を知らないで支払困難となっている人が少なくないようです。

日本学生支援機構が毎年実施している「奨学金の延滞者に関する属性調査」(以下「属性調査」)は、延滞者(3か月以上延滞)と無延滞者の属性を比較することで、返済困難者に見られがちな傾向を探っています。

その平成24年度属性調査によると、延滞者の85%が年収300万円未満(無延滞者は約6割)と返済猶予等の減免措置の対象となる人が多いにもかかわらず、返済猶予制度で57%、減額返還制度では75%の延滞者が制度の存在を「知らない」または「あまり知らない」(無延滞者では53%と65%)と回答しています。

さらに、制度を「知っている」場合も、約3割は申請すらしていません。

これでは、本来であれば返済困難に陥る必要がなかったはずなのに、制度を知らないが故に返済困難となっているケースも少なくはないでしょう。属性調査結果から大雑把に考えて、返済困難者の半数程度が該当している可能性もあります。

無延滞者にも制度を知らない人は多いので、日本学生支援機構が制度の周知徹底を十分効果的には図れていないという面は間違いなくあるでしょう。

しかし、無延滞者が自分に必要のない制度に関心がないのが当然であるのに対し、延滞者は今まさに危機に面しているわけです。にもかかわらず、制度を知らない人がむしろ多いというのは、延滞者側の意識に問題がある場合も少なくないと考えざるを得ません。

一般の住宅ローン等でもそうなのですが、金融機関として一番困るのは貸出しがデフォルト(債務不履行)することです。それを避けるために、返済額減免や期間延長等の条件変更に応じてくれる場合は案外多いのです。

例えば、三菱東京UFJ銀行が住宅ローンの条件緩和申請を受け入れる割合は、過去4年間ほぼ変わらず9割弱となっています。

基本的な金融リテラシーとして、知っておくと良いと思います。

■延滞者には、手続きを他人任せにし、返済義務を理解していない人が多い件
属性調査は、延滞者と無延滞者の違いをくっきりと浮かび上がらせます。

例えば、誰が奨学金申請書類を作成したかという項目では、「本人」(「本人と親等」を含む)と答えたのが無延滞者では8割と大多数であるのに対し、延滞者の半数近くが、本人以外が作成したと答えています。

また、他人から勧められずとも自ら申請した人の割合は、無延滞者が延滞者の約2倍です。他人からの勧めがあった場合でも、無延滞者はその4分の3が身内からの勧めであるのに対し、延滞者では学校関係者や友人といった他人の勧めが過半を占めています。

つまり、支払困難となる人の場合は、自らの借金である奨学金を借りるという行為を他人任せにする傾向があるのです。

そして、貸与手続を他人任せにした結果なのか、延滞者の30%以上は貸与手続の時点で返済義務を理解していません。また、驚くことに、卒業後に返済を開始する段階でも、延滞者の2割(「いつ理解したか不明」を含む)は返済義務があることを理解していないのです。

これは、無延滞者のほとんど(95%以上)が貸与開始までに奨学金の返済義務について理解しているのと比べ、あまりにもお粗末な状況だと言うしかありません。

奨学金利用者本人の姿勢や奨学金に対する理解不足が、後々奨学金が返済困難となる状況を作りやすくしているのは明らかでしょう。問題は、どうしたらこのような状況が改善されるかということです。

■奨学金のマーケティング:名称とチャネルの問題
上で見たように、貸与型奨学金の趣旨を利用者に周知できていないという奨学金のマーケティングの問題や、一部の利用者の姿勢や理解が十分ではないというリテラシーの問題は、おそらく小さくはありません。

対策として、金融商品である「貸与型奨学金」の名称を「学生ローン」等に変えるべきだという意見があります。実際、「奨学金」と聞くと、返さなくても良いものだと勘違いしてしまう人が少なからずいるようですので、これは意外に良い方法なのではないでしょうか。

但し、銀行等が貸し出す比較的高金利の一般の学生ローンとの区別がつくようにする必要があります。それらの商品と混同されてしまうと、低金利の貸与型奨学金を借りられるにもかかわらず高金利のローンを借りてしまい、むしろ支払困難者が増加する状況も考えられます。ローン契約であることを利用者にはっきりと認知させると同時に、一般の金融機関が提供していない好条件なのだということが明らかに分かるようにしなくてはなりません。

ですので、「貸与型奨学金」を「奨学金型学生ローン」くらいに変えるのが良いかもしれません。スマートな名称ではありませんが、「ローンなのに奨学金型ってどういうこと?」などと思ってもらえればしめたものです。

また、チャネルの問題も重要です。

よく知られているように、日本学生支援機構の奨学金募集は学校で行われています。大学で借りる場合は、高校在学中なら高校、進学後なら大学で申請することになります。

数百万円もの多額のローン契約を、金融リテラシーが必ずしも高くないかもしれない学校の教職員を介して行うというのは、消費者保護の観点から言ってあまり適切ではないような気がします。貸与型奨学金が借金であることや、支払困難に陥るリスクについて、きちんと説明できているのでしょうか。

もしも奨学金手続きの担当が「ナニワ金融道」に出てきた教頭先生くらいのレベルの金融リテラシーだったとしたら、大事なことを生徒の皆さんがちゃんと理解するのは難しいかもしれません。

また、必要事項が適切に説明されていても、深く考えずに「先生の言う通りにしよう」となってしまう面もあるでしょう。先に見たとおり、延滞者には学校関係者等に勧められたから借りたという人が多いのです。

学生本人が自ら能動的に申し込み、返済義務やリスクについて本人が理解していることを確認しない限り申請が受理されないような仕組みを、日本学生支援機構は考えるべきだろうと思います。

■学生の金融リテラシーの問題
返済義務を理解していない奨学金利用者が多い点などは、日本の学生の金融リテラシーが低いことと大いに関係していると考えるべきでしょう。

そもそも、平均的に教育水準の高い日本人が他の先進国と比べて金融リテラシーが高いかと言えば、決してそんなことはありません。

というか、むしろかなり低いほうです。

詳細は省きますが、金融リテラシーについての良く知られた調査方法に、金利、インフレ、投資リスクの3つの簡単な選択問題を答えさせるというものがあります。

ある調査で、ドイツ人の57%、オランダ人の46%が全問正解したところを、日本人は27%しか全問正解しませんでした。これは、米国の35%、イタリアの28%よりも低く、調査対象となった8か国で日本より悪かったのはロシアだけでした。まったく解けなかった割合も、ロシア、イタリアに次ぐ高水準(17%)でした。

また、年代別では、35歳以下で全問正解15.7%と若年層の正答率の低さが目立っており、社会経験を積み、経済的な余裕ができるにつれ正答率が上昇するという傾向が確認されています。

2012年にOECDが実施した各国地域の15歳の生徒を対象とした学習到達度に関する調査では、新たに金融リテラシー分野が盛り込まれましたが、日本は読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの3分野でOECD加盟国中1位、2位、1位と好成績を収めたものの、金融リテラシーの調査には参加しませんでした。

下衆の勘繰りかもしれませんが、3分野でトップクラスの成績を誇る日本が金融リテラシーの分野で酷い成績を公式に記録してしまうことを、文科省周辺の皆さんが良しとしなかったのかなぁという気がしています。もし参加していたら、かなり残念な結果となった可能性が高いと思います。

金融リテラシーは数学や読解力と関連するというのがOECD調査の結論なのですが、それらの分野で能力の高い日本で特に若年層の金融リテラシーが低いというのは、忌々しき問題だと考えるべきでしょう。未熟な金融リテラシーが、詐欺被害やギャンブル依存等の社会問題に繋がっていることも考えられます。

日本では、お金のことを話すのは良くないことのように考える空気があるように思いますが、そうした思考停止が、いろいろな問題の根本的な原因であるような気がしています。

できれば初等教育の段階から投資や借金のこと等を学べる教育環境の構築を、そろそろ真面目に考えても良いのではないでしょうか。

奨学金や仕事に関しては、以下の記事も参考にしてください。
■日本学生支援機構奨学金の返済猶予制度について。
■借金返済のために風俗店で働く女子学生の問題が、本当は奨学金のせいではない明らかな理由。
 ■話題沸騰「正社員制度をなくしたらどうなるか問題」を、ファイナンス論的に考えてみた。
■ちきりんvsイケダハヤト「通勤手当廃止」論争で語られなかった「住まいの問題」緩和策。
 ■一年で3回転職したアラフォー女子、年収倍増は幸運だけが理由じゃなかった。 

■まとめ
・北九州市40歳フリーター男性の自己破産は、奨学金の問題ではなく貧困問題です。
・貸与型奨学金を給付型にすると、給付範囲が狭まるため多くの人が困ります。優秀な人に対する給付型や授業料免除の拡充はメリットあり。
・制度に対する理解度が低い等の支払困難者に見られる傾向は、奨学金の名称や、流通チャネル、金融リテラシーの問題と関連しています。
・読解力や数学力の高い日本の金融リテラシーが低いという状況は、忌々しき問題。子供の頃からお金について考えることのできる教育環境が必要です。

スイスショックで報告された業者の未収金は34億円。でも、顧客の損失はもっと大きい。


日経新聞等で既に報じられているように、1月15日のスイスフランショックに伴い発生した国内FX取引業者の「ロスカット未収金」が33.8億円だったと、業界団体の金融先物取引業協会が公表しています。(1/28付日経新聞では33億円とされています。)

内訳は、個人1,137人からの未収金が19.5億円、92法人からの未収金が14.4億円となっています。個人で一人あたり170万円ほどというこの数字を見て、「スイスフランショックの影響って、日本ではそうでもなかったんだな」と思う方も少なくないかもしれません。

例えば、日経新聞(1/28付)は、海外では破綻に至るFX業者も出ているとし、顧客の損失が約260億円に達したとされる米大手FXCMの例を引き合いに、国内での影響は「相対的に軽微」であったとまとめています。

たしかに、日本ではスイスフラン建ての取引は他のメジャー通貨ペアの取引に比べると大きくはなかったでしょう。では、日本のFX投資家への影響はやはり本当に軽微だったのでしょうか?

実際のところ、顧客の損失がどのくらいだったのかはよく分かりません。ですが、いくつかの仮定をおいて、その規模を何となく大雑把に想像するのは可能です。

■ロスカット未収金とは、業者が損失するかもしれない金額
ほぼ間違いないのは、顧客の損失は、協会が公表したロスカット未収金の34億円よりはだいぶ多かったのではないかということです。

金融先物取引業協会の定義では、「ロスカット未収金」は、「顧客が会員に支払わなければならない金銭のうち、顧客の取引がロスカット取引により決済されたときの損失が、当該顧客が預託する証拠金額を上回ることにより発生するもの」とされています。

分かりやすく言えば、33.8億円と報告されたのは顧客の損失の全部ではなく、顧客の損失のうち業者が公表の段階で顧客からとりっぱぐれている金額ということです。

■顧客の損失はどのくらいと見るべきか?
証拠金と取引額のレバレッジを20倍(証拠金が5%)、ロスカットが約定した水準を-20%とすると、ロスカット未収金が発生している顧客の損失は、33.8億円×4/3=約45億円 ということになります。但し、レバレッジとロスカットの水準によって、実際の金額は変動します。

これは「未収金が発生している顧客」に限定した、顧客の損失です。実際には、証拠金や含み益のあった取引の清算等によって、スイスフランショックによる損失が全額カバーされた顧客も少なくはないはずです。

ここでは、未収金が発生していない顧客に係る損失も同程度あったと大雑把に考えてみましょう。これで、顧客の損失は45億円の二倍で90億円ということになります。

これで終わりではありません。

国内のFX投資家は、実は海外FX業者を使うこともあります。スイスフランは国内ではメジャーではありませんので、取引量の多い海外の業者を好んで使う投資家も少なくはなかったでしょう。国内業者で発生した損失に、何割か加味した水準で考えた方が良いかもしれません。

かなり大雑把な見立てですが、100億円から150億円くらいの損失が顧客レベルで発生していたと考えても、考えすぎではないような気がします。

■協会は顧客の損失も明らかにすべき
FXの業界団体である金融先物取引業協会が、会員企業のロスカット未収金を明らかにしていることは評価できますが、加えて顧客レベルの損失についてもきちんと開示すべきでした。

金融先物取引業協会は、バイナリーオプションというギャンブルに近い当てモノのような商品について各会員企業ごとの平均回収率や損を出した顧客の比率を月次で報告する等しているように、顧客の損失の程度と可能性について、情報を開示しようとする姿勢でいるように思っています。

もしそうであるのなら、FX投資家が今後の教訓にできるよう、こうした暴落・暴騰に係る顧客の損失の実態についても、詳らかに情報開示するのが筋ではないでしょうか。

今後の協会の取り組みに期待したいと思います。

以下の記事も参考にしてください。
■スイスフランショックを増幅させたリスク回避の仕組み。■話題沸騰「正社員制度をなくしたらどうなるか問題」を、ファイナンス論的に考えてみた。
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■まとめ
・国内FX業者が顧客から今のところとりっぱぐれているスイスショックに起因する未収金は、33.8億円です。
・スイスショックによる顧客の損失は、大雑把な見積もりから考えて、100~150億円程度あってもおかしくはありません。
・金融先物取引業協会には、暴落・暴騰時の顧客の損失の実態についても、きちんと公表していただきたいと思います。