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誰も言わない、東京ディズニーリゾート「顧客満足度」が急落した本当の理由

いくつかのディズニーのお城のモデルになったと言われるドイツ・ノイシュバンシュタイン城

日本生産性本部「サービス産業生産性協議会」が先月発表したエンターテインメント部門の2016年度顧客満足度指数(JCSI)は、前年度同様、東京ディズニーリゾート(TDR)にとって極めて厳しい結果となった。
(注:JCSI(Japanese Customer Satisfaction Index、日本版顧客満足度指数)は、米ミシガン大が開発したCSI(顧客満足度指数)を元に、官民協力のもとサービス産業生産性協議会が開発した顧客満足度指数。)

■急落した「顧客満足度」
TDRの過去5年間のJCSI顧客満足度の推移は以下の通り。2016年度は、過去最高であった2013年度の86.8を約10ポイント下回る77.1となった。指数急落が大きく報道された前年度調査をも下回る水準である。2014年度以降の大幅下落は、“指数の傾向として”は明らかだろう。

2012年 85.7
2013年 86.8
2014年 82.7
2015年 77.9
2016年 77.1

しかし、筆者がここでわざわざ“指数の傾向として”と書くのは、この“顧客満足度指数の変化”がTDRの“実際の顧客満足度の変化”を意味するかと言えば、必ずしもそうではないからだ。

では、なぜそう言えるのか?

それについて答える前に、まず、TDRのJCSI顧客満足度急落がどのように報道されたのか振り返ってみよう。

■急落の理由はどう報じられたか
TDRの「顧客満足度」が急落した要因について最も詳しく報じたのは、YOMIURI ONLINE(2016/1/6付)の『「夢の国」東京ディズニーリゾートに異変の兆し』だろう。執筆者の法政大学経営大学院小川教授はJCSI開発の座長を務められた方で、一般に入手可能なニュースリリースでは分からない点等も含め、詳細に分析されている。

記事で小川教授が指摘したのは以下のようなポイントだ。特に、初めの二点については同意される方も多いのではないか。

・ 値上げによる値ごろ感の低下。
・ 利用客のマナー低下と雰囲気悪化。
・ 感動(期待を上回る印象)の低下と、失望(期待ほどではない印象)の増加。
・ アトラクションの品質評価の低下。

記事ではこれらの点について、TDRと似通った業態であるユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)等との比較を行っているのだが、2014年以降ややポイントを落としたTDRと比べ、USJは横ばいかやや良化しており、好調さが見て取れる。絶対水準ではいずれもまだTDRの方が上回っており、かつては大きかったTDRのリードをUSJが徐々に詰めてきた形だ。

筆者は、こうした指摘は妥当なものだと考えている。特に、他の施設との比較は、TDRの今後を考える上で示唆に富むものになろう。

しかしながら、TDRの“実際の顧客満足度の低下”があったかと聞かれたら、「2013年以降のJCSI顧客満足度指数からはそれは判断ができない」としか言えない。何しろ、“実際の顧客満足度”は、むしろ改善した可能性すらあるのだから。

■「顧客満足度」急落の本当の理由
筆者が“実際の顧客満足度”がこの数年でどう変化したのか分からないと主張する理由は明確だ。実は、JCSI顧客満足度指数のエンターテイメント部門の調査は、最近では2014年と2015年の二度、調査対象者を選ぶ基準を弛めている。弛めた結果、調査対象者の平均的な属性が変わってしまったのだ。

2013年以降の調査対象者(各300人)の選定基準は、概ね以下のようなものだ。

2013年: 最近1年間で2回以上利用した。料金は自分で支払った。
2014年: 最近1年間で2回以上利用した。料金がいくらか知っている。
2015~2016年: 最近1年間で1回以上、2年間で2回以上利用した。料金がいくらか知っている。

2014年の変更による指数への影響を推計するのは困難だが、ネガティブな影響があっただろうことは容易に推察できる。一方、2015年の「1年で2回の利用実績」から「2年で2回の利用実績」に基準を弛めた影響については、簡単な推計を試みた。

この点について、末尾の参考記事『サンプリングの基準が変更された場合のサンプル構成の変化について』で、テーマパークの利用頻度に関するある調査結果をベースに推計を行ったところ、年に2回程度以上利用する層をA、年に1回程度以下しか利用しない層をBとすると、調査対象者の内訳(A:B)は、2014年基準で概ね2:1~3:1、2015年基準で概ね1:1となった。

Aは言うまでもなく、TDRへの“思い”が「濃い人」であり、Bはそれが「薄い人」である。すなわち、2015年の基準変更は、「濃い人」の比率を1/2~1/3程度に薄める変更だったのだ。

ちょうど良い具合だっためんつゆに、後から同量の水を入れてしまったようなもので、味が大きく損なわれてしまうのは当たり前だろう。

簡単な数字で考えてみるのも良いだろう。仮に、Aの“実際の顧客満足度”が90で、Bが60であったとすると、2014年基準による調査対象の平均は80~82.5、2015年基準による調査対象の平均は75となる。これは大きな違いだ。

■無視されがちな統計の基本中の基本
統計調査でおそらく最も重要なプロセスが、調査対象の抽出(サンプリング)である。今回のケースのように、基準変更が調査対象の構成に大きく影響したと考えられる場合は、一見同じように調査していたとしても、もはや同じ調査とは言えない。調査対象の属性が変わった統計は、直には比べられないのだ。

学術論文等を除けば、統計データの調査対象がどのように決められたのか明らかにされないままに参照されることは少なくない。どのように作成され、どのような傾向があるものなのか、フェアなのかどうか、そういうことが吟味されずにランクや指標だけが独り歩きすることがあまりにも多い印象だ。

センセーショナルな結果やインパクトのある数字を好むのは、メディアの習性とも言える。それは必ずしも実態を適切に伝えるものではないということに、読者の側も留意すべきだろう。

繰り返しになるが、TDRの“実際の顧客満足度”がこの数年でどう変わったのかは、件の調査結果では分かりえない。「夢の国」の魔法は、まだ解けてはいないかも知れないのだ。

【参考記事】
■日本が先進国で最下級だという「幸福度」ランクについて、みんなが勘違いしていること
■報道の自由度ランキングは、どう偏っているのか
■日本がギリシャより労働生産性が低いのは、当たり前
■日銀のマイナス金利政策は、大成功だが、大失敗だ
■サンプリングの基準が変更された場合のサンプル構成の変化について

【追補】
・ 「現基準の方が一般の認識に近いのでいいじゃないか」との意見はその通りですが、ここで主張しているのは、異なる基準で得られた結果を比較して上がった下がったと騒ぐのがナンセンスだという点です。

・ 調査対象基準緩和にも拘わらず指標が改善傾向のUSJは、「最近頑張ってるな」という印象そのままということでしょう。

・ エンタメ部門でも宝塚歌劇団等の観劇系は、年に数回から数十回も通う熱烈なファン層と、記念行事的に行く一般層に極端に二分されており、年に一二度行くという中途半端な層が相対的に少ないため、基準変更の影響は軽微だったと考えています。宝塚は、友の会に入会しても「ステイタス」を上げないとチケットをとることが困難なレベルで、友の会以外では大手の旅行会社による手配くらいのようです。

英不動産ファンド2.4兆円の解約請求は、なぜ凍結されたのか。


先月6月23日に実施されたEU離脱の是非を問う英国民投票は、EU離脱派が完勝した。事前の予想をくつがえす結果であったことから市場への影響も大きく、円高が大きく進行し、株価は暴落。既に長期までマイナス圏に沈んでいた日本国債の利回りは、さらに一段深く沈みこむこととなった。

このサプライズで大きな影響を受けたのは、もちろん当事者であるイギリスの市場も同じだ。開票直後の変化を見ると、為替が対ドルで13%程度のポンド安となった一方、イギリスの株式指数FTSE250は14~15%程度下落した。中でも、不動産不況への懸念から住宅建設関連株の下落幅は大きく、Bloombergが提供する住宅建設業(Homebuilders)インデックスは、開票前と比べ約4割も大暴落したのだ。

■不動産ファンドの解約請求が殺到
イギリスの不動産市場の不透明感から売られているのは、住宅建設関連株だけではない。Bloomberg等の金融情報メディアの報道によれば、目下、イギリスの不動産ファンドへの投資資金に解約請求が殺到しているのだと言う。

(引用)『英国では大手不動産ファンドの対顧客取引停止が相次ぎ、合計約180億ポンド(約2兆3600億円)の資産が凍結または動きが制限された。英国の欧州連合(EU)離脱決定を受けて投資家が同国の不動産投資から手を引こうとし、解約請求が急増している。
「リーマン破綻前夜のベア・スターンズのサブプライムファンドを彷彿(ほうふつ)とさせる」と、ジャナス・キャピタル・グループのビル・グロース氏がブルームバーグ・テレビジョンとのインタビューで述べた。「金融システムは流動性が適切な場所に流れ込むようにできていない。不動産ファンドはほんの一例で、恐らくほかにも資金が流出する分野があるだろう。懸念すべきことだと思う」と語った。』

(2016年7月7日付ブルームバーグ記事『2.4兆円の英不動産ファンドが凍結-リーマン前夜のサブプライム彷彿』より抜粋。)

解約請求の急増に対処するため6日までに解約処理を一時的に凍結することを決めた英不動産ファンド運用会社は7社。その金額は180億ポンド(約2.4兆円)にも上る。解約処理の凍結がこれほど広がったのは、それだけ多くの解約請求が集中したということだろう。

同記事では、そうした解約請求急増の原因は、『ロンドンのオフィス価値が英国のEU離脱から3年以内に最大20%下落する恐れがある』とのアナリストらによる警告だとされている。これは、おそらく間違いではないだろう。

だが、逆に言えば「3年以内に最大でも20%しか下落しない」と考えられる状況で、ここまで極端なパニック売りが進むというのは、やや違和感もある。肝心の投資先である不動産自体の経済的価値が、それほど急に目減りするはずもないのだ。

■流動性の限られた市場と美人投票
通常、投資ファンドに投入された資金は、キャッシュとして保有される一部金額を除き、そのほとんどが投資対象の購入に充てられる。相対的に少額であるキャッシュは、解約請求された投資口の償還や、費用の精算等に使われる。

ここで、ファンドの投資対象が市場で適時に売却可能な株等の有価証券であれば、ある程度の解約請求があってもキャッシュに換価して払い戻すことができる。ところが、投資対象が不動産の場合、すぐに適当な値段で売却してキャッシュに換価するというのは難しい。そうした換価のしやすさを「流動性」と言うが、流動性がかなり限定的なのが、不動産ファンドである。

投資家は、当然そうした事情は分かっている。そして、同時に、他の投資家も同様にそうした事情を分かっていることを知っているので、自分以外の他の投資家が皆、おそらく急いで解約しようと考えるであろうと考えるのである。当然、自分自身も同様に解約を急ぐべきと判断するだろう。

金融市場では、誰が最も美人かを当てる「美人投票」と同じで、皆が選ぶ選択肢こそが“正解”なのだ。

■解約請求の凍結は必要か?
ファンドによる解約請求の凍結は、投資家からの信頼を損なうものとして批判する向きは少なくない。だが、筆者は、今回のようなケースでは解約請求の凍結は不可避だったと考えている。自分自身、過去に投資先のファンドが解約処理を停止したことで大きな不利益を被ったこともあるが、その処理については納得するしかなかった。

解約請求の凍結は、何もファンド側の都合だけを考えて行っているわけではない。そもそも限られた流動性の中で解約に応じるだけのキャッシュが準備できない場合もあるだろうが、ほとんどの場合、ある程度余裕がある段階で凍結を決めるはずで、そうした措置を早めに講じるのは実は投資家保護の意味合いもある。投資規模が縮小するにつれ固定費負担が大きくなって投資利回りが低下するため、保有資産の状況に拘わらず、逃げ遅れて残された投資家だけが大きな損失を出してしまうことになるからだ。

また、仮に日々の運転資金も賄えないレベルまでキャッシュを払い戻したとすると、おそらくいずれファンドはデフォルト(債務不履行)してしまうだろう。そうなっては元も子もないのは、明らかだ。そうした状況は、何としても避けなければならないだろう。

「“限定的な流動性”は、市場が安定している通常時には一定の安全弁として働く一方、ひとたび大きなショックが起こってしまうとそれを増幅させる装置となってしまう」ということが、今回の騒動でも再確認されたのである。

【参考記事】
■日銀のマイナス金利政策は、大成功だが、大失敗だ。
■日本がギリシャより労働生産性が低いのは、当たり前。
■日本が先進国で最下級だという「幸福度」ランクについて、みんなが勘違いしていること。 
■映画『マネー・ショート』を見ていて混乱するのは、「空売り」を予習したせいだ。
■スター・ウォーズを特別料金にするのはともかく、日本がそもそもダントツに映画が高い件。

ショーンK氏の経歴詐称は、インチキ住宅ローンが詰まったモーゲージ債と知りながらCDSを売るようなもの。


テレビ朝日の看板番組「報道ステーション」等でレギュラー・コメンテーターをつとめたショーンK氏が経歴詐称疑惑により同番組等を降板した問題について、既に多くの方が色々な意見を述べられています。誰と言うわけでもないのですが、まるで経歴詐称を些末なことのように考える人が少なからずいたことは、私自身にとっては驚きでした。彼がどんなに素晴らしいナイスガイだったとしても、経歴や資格を偽って営業を行う詐欺的行為は許されるものではないのです。

ショーンK氏自身は、既にそうした詐欺的行為の代償を払う形で、彼の原点とも言えるFM局のナビゲーターも含め、マスメディアでの仕事をすべて自粛しています。本業とされる経営コンサルタントとしての仕事にも大きな影響があることでしょう。

自分がこれまで積み上げたものをすべて台無しにしてしまうリスクを考えると、いつまでも経歴詐称を続けるというのは合理的ではないように思うのですが、なぜ早い段階で思い止めることができないのでしょうか。

■経歴詐称のリスクとは
ショーンK氏が最初に大胆な経歴詐称を行ったのは、おそらくFMラジオのナビゲーターとして世間に露出することになった前後のことでしょう。この段階ではまだそれほど知名度もなく目立った存在ではないため、詐称がバレる確率Pも、仮にバレた場合のインパクトIも小さく、安易な思い付きで禁断の果実に手を出してしまったのかもしれません。

ここで、経歴詐称のリスクRは、バレる確率Pとバレた場合のインパクトIの積で表されます。
R(リスク) = P(発生確率) × I(発生した場合のインパクト)

(確率とインパクトを掛け合わせてリスクを評価するのは、分野に拘わらずリスク管理の基本中の基本ですので、ぜひ覚えておくと良いと思います。)

その後、詐称によって強化されたキレッキレの経歴を生かして出版やテレビ等へ活躍の場を広げたわけですが、そうして知名度が高まるにつれ、詐称がバレてしまう確率が上昇し、同時にバレた場合のインパクトも大きくなりました。

確率やインパクトと知名度の間に線形の関係を仮定すると、それらの積である経歴詐称のリスク(=確率×インパクト)は、知名度の二乗の関数になります。ショーンK氏が活躍すればするほど、活躍以上にリスクが増大していたのです。

■経歴詐称は割に合わない
経歴詐称による利益がそのリスクの大きさに比べてリーズナブルであるためには、知名度が十分低くなくてはなりません。ショーンK氏のように自分を広く知らしめようとする場合、経歴詐称という一種のマーケティング手段は、法的や道義的に問題なだけではなく、経済的にも割に合わない悪手だと言えます。

それにも拘らず、いつまでも経歴詐称を続けてしまうのは、上手くいっているときには、それがいつか破綻するかもしれないという当たり前のことが、当たり前として考えられなくなるためでしょう。バブルに踊る間は、目の前にどんなに明らかな兆候があってもそれがバブルだと気づけないものです。

経歴詐称によって営業を強化する一方で人生が破綻するリスクにさらされる状況は、自分自身の破綻を賭けの対象にするCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)を売ってプレミアム収入を得るのに似ています。

賭けの対象が破綻リスクの高い「インチキ住宅ローンばかりを詰め込んだモーゲージ債」だと知りながらそのCDSを売るのは、映画『マネー・ショート』で破綻の危機に陥ったCDSの売り手もやらない、狂気の沙汰と言えるでしょう。

(CDS取引については、ぜひ参考記事をご覧ください。)

≪参考記事≫
・映画『マネー・ショート』を見ていて混乱するのは、「空売り」を予習したせいだ。
・セレーナ・ゴメスのあのシーンが分かる。映画『マネー・ショート 華麗なる大逆転』を華麗に楽しむための基礎知識 - 上級編
・映画『マネー・ショート 華麗なる大逆転』を華麗に楽しむための基礎知識 - 初~中級編
・映画『マネー・ショート 華麗なる大逆転』を華麗に楽しむための基礎知識 - 初心者編
・話題沸騰「正社員制度をなくしたらどうなるか問題」を、ファイナンス論的に考えてみた。

Why American people!? 米アカデミー脚色賞を受賞した注目映画で、アメリカ人が住宅ローンを返せなくなったのは当たり前。


レオナルド・ディカプリオが念願の主演男優賞を受賞した第88回アカデミー賞で、脚色賞を受賞した注目の映画が『マネー・ショート 華麗なる大逆転』です。

マネーがショート(不足)して資金繰りに奔走…そんな話かと勘違いしてしまいそうな邦題ですが、原作はマイケル・ルイス氏の小説『The Big Short』(邦訳『世紀の空売り』)で、リーマンショックに至る経済危機を舞台に展開される実話をもとにした悲喜劇です。

「ショート」「ロング」と言えば、一般的には長さが「短い」「長い」ですが、金融市場では、「ショート」が「売り」、「ロング」が「買い」を意味しています。(普通に長さを意味する場合もある。)

■サブプライムローンとは何だったのか?
この映画で重要なカギとなるのが、過剰な住宅ローン融資を背景とした住宅バブルです。当時問題化した住宅ローンとして良く知られる「サブプライムローン」が、本映画の公式サイトでもキーワードの第一に挙げられています。

サブプライムローンとは?
銀行がろくに審査もせず、借金返済能力の低い市民にバンバン貸しつけた住宅ローンのこと。全米でバブル化していた住宅市場の崩壊(住宅価値の下落)が始まると、ローンの焦げつきが急増。多くの市民が破産して自宅を失うとともに、サブプライムローンを組み込んでいた金融商品(モーゲージ債)は投げ売りされ、リーマンショックの引き金となった。

(映画『マネー・ショート 華麗なる大逆転』公式サイトより抜粋。)

「銀行がろくに審査もせず」という部分はともかく、「バンバン貸しつけた」ことが住宅バブルを促進させたであろうことは、この図からも容易に想像できます。

(住宅価格はS&P/Case-Shiller全米住宅価格指数、住宅債務残高はFRB資料より、筆者作成。)
(注: 住宅価格指数は1975年から2006年まで一貫して上昇。足もとでは住宅価格指数がピーク時に近い水準まで戻したが、住宅債務の総量は増えていない。)

過去数十年にわたり右肩上がりに推移した米国の住宅価格(図の赤線)は、2000年代に入りその上昇ペースを加速させた後、2006年をピークに下落に転じました。そして、それから約一年遅れ、住宅債務残高(青棒、FRBの定義によるOne- to four- family residences向け)がピークに達した頃、サブプライムローン問題は世間一般にも認知されていました。

「サブプライム」は本来「プライム(優良)よりは劣る」という意味で、特別とんでもない住宅ローンというわけではありませんでした。プライムと比べてある程度の貸し倒れリスクを貸し手が許容する一方で、金利等の条件を比較的厳しく設定したものがサブプライムなのです。

借入当初から金利が高いわけではなく、かつて日本の住宅金融公庫(現在の住宅金融支援機構)が貸し出していたステップアップローンのような、途中から金利が上昇するティーザー金利と呼ばれる仕組みが頻繁に採用されました。

審査基準は、当然プライムよりも緩かったでしょう。ですが、流石に「ろくに審査もせず」という状況ではなかっただろうと思います。

幸運にも過去数十年間に渡り住宅価格が上がり続けてきた当時の米国では、住宅ローン貸出基準のキモは将来値上がり確実な物件であって、返済が困難となった借り手であっても、ローンの借り換えや物件売却によって完済可能だと考えられました。借り手本人の支払い能力はあくまでも補完的なものだったのです。

(FICO(ファイコ)スコアと呼ばれる信用情報の欠陥や不正等、他の問題も多々ありますが、ここでは説明を省略します。)

■過去データを反映して設計されたサブプライムローン
下図では、黒が住宅ローンの毀損率、緑がクレジットカードローンの毀損率、青が失業率、赤が住宅価格指数の推移を表しています。(但し、毀損率は債務不履行後の回収を反映したネットの損失率。)

(住宅価格はS&P/Case-Shiller全米住宅価格指数、他はFRB資料より、筆者作成。)

緑のクレジットカードローンの毀損率が概ね失業率と関連して変動する中、リーマンショック以前では、景気の悪化を意味する失業率の上昇が住宅ローンのパフォーマンス悪化(毀損率上昇)に大きく影響していないことが、図の比較から見て取れます。

このようなデータを長年積み上げた結果、「住宅価格さえ上がっていれば、景気が悪化しても住宅ローンは回収できる」と貸し手が考えてしまったのは、当然のことだったのかもしれません。それを否定するもっともらしい根拠はありませんでした。

景気悪化時も含めて住宅価格は常に上昇していたため、サブプライムローン等の住宅ローンの貸出基準は、ある意味必然的に物件価値中心となったのです。

米国の住宅ローンが実質的にノンリコース(住宅処分後に借入人がローンの残額を請求されることがない)であることも、個人の返済能力を重視しない方向に働きました。

そして、借り手にとっても、とにかく住宅ローンを借りて住宅購入することこそが、正しい道のように見えてしまったのです。

■米住宅市場崩壊の時系列
公式サイトの用語説明にあるように、住宅価格下落を機に「ローンの焦げつきが急増」したことは、図からも確認できます。

貸し手も借り手も、住宅価格が上昇することを大前提に、借り換えや売却ありきで実行されたローンですので、住宅価格が低下すれば、当然、返済見込に大きな影響が生じます。返済不能に陥る人が続出するのは、当たり前なのです。

当時の住宅市場の変化を大雑把に時系列に追うと、
・ 住宅価格の伸びが鈍化し、次いで住宅ローンの伸びが鈍化(2005~2006年頃)。
・ 2006年をピークに住宅価格が減少に転じ、同時に住宅ローン毀損率が上昇開始。
・ 2007年半ばに失業率が底を打ち、反転上昇。サブプライム問題が広く認知。
・ 2008年9月のリーマンショックを境に住宅債務残高が減少に転じる。住宅ローンを担保にした複雑な証券化商品の市場が壊滅状態に。失業率の急激な上昇に伴い、住宅ローン毀損率はさらに上昇。
となります。

今から振り返ると、住宅価格下落の始まりがポイント・オブ・ノーリターンで、そこから市場崩壊への道筋は、システマティックに決まってしまっていたようにも思えます。

多くの人がありえないと思っていた住宅価格の下落が始まったとき、物件価値重視の仕組みが市場崩壊の梃子(てこ)になることに気付けた人だけが、未曽有の金融危機の最中に他の市場参加者たちを出し抜くことができたのです。

そんな人たちにスポットライトを当てた映画『マネー・ショート』は、3月4日から全国ロードショーとのこと。重要なキーワード等をおさらいした上での鑑賞をおススメします。

■とても大事な教訓
・ 過去のパフォーマンスは、それがどんなに確かそうに見えても、決して将来を約束しません。
・ 皆が同じ方向を向いているときほど、期待が外れた時の反動が大きくなりがちです。
・ テールリスクに備えましょう。

≪参考記事≫
■スター・ウォーズを特別料金にするのはともかく、日本がそもそもダントツに映画が高い件。
■不遇の天才チューリングの半生を描いた脚本家が感動のアカデミー賞スピーチで訴えた、日本に一番足りないもの。
■映画「イミテーション・ゲーム」の暗号解読ミッションを、「魚のムニエル」で解説してみました。
■「100分中20分が性描写」と話題の女性向け官能恋愛作品がもたらした衝撃と、大人の事情。
■借金返済のために風俗店で働く女子学生の問題が、本当は奨学金のせいではない明らかな理由。

どうしても宝くじで夢を買いたいなら、海外移住するといい。


大晦日12月31日は、毎年恒例の年末ジャンボ宝くじ当選発表日です。近年の販売不振から、これまでにも増して射幸心を刺激するため、史上初めて1等前後賞の合計を10億円に増額したというニュースを耳にされた方も多いでしょう。

1等+前後賞を10億円に増額したことで、ある意味、夢は大きくなったわけですが、当然その分、当選確率や1等が当たらなかった場合の平均リターンは小さくなりました。

■宝くじを買うことの合理性
良く知られているように、宝くじの平均リターンは45.7%です。これは、投資対象として考えた場合、絶対に買ってはいけない水準です。

宝くじと同じように、買った瞬間に時価が半分以下になってしまう金融商品があったとして、そんなものに投資をする人はいないでしょう。

でも、実際には、宝くじを買う人は少なくありません。年々販売額が減少しているとは言え、年間9000億円以上も売り上げており、ギャンブル市場としては中央競馬(JRA)に次ぐ規模を誇っています。

大勢が宝くじを買うのは日本に限ったことではなく、市場規模で見れば、アメリカは6兆円規模、イタリアは3兆円規模、ドイツ、フランス、スペインも1兆円以上です。(参考:「宝くじ問題検討会報告書」、2010年)

買った瞬間に半値以下に減価する宝くじを買うことに合理性がないかと言えば、必ずしもそうは言えないかもしれません。

宝くじを、夢を買う「消費」であり、同時に、国庫への「寄付」だと考えられる人にとっては、生活に支障がない範囲であれば、宝くじも十分に合理的な選択になりえるのだと思います。

■効率良く夢を買う方法
世の中には、宝くじが当たりやすくなる方法があるかのように喧伝するインチキ情報等もあるようですが、実際にはそんなものありはしません。純粋に確率で決まる世界です。自己満足で何かにすがるのは自由ですが、そんなことで当せん確率は変わりません。

それでも、少しでも効率良く夢を買おうと思うなら、海外移住をおススメします。

次の図は、宝くじの販売額上位国にドバイを加えた10カ国・地域の還元率をまとめたものですが、見ての通り、日本の45.7%というのは最低水準なのです。

逆に、最も高いのはドバイの72%です。

一枚277.78米ドルの宝くじ5000枚に1枚、当せん金100万ドル(約1億2000万円)が当たるというもので、当せん確率でも他の追随を許しません。

5000回に1回当たるなら、発表を待つ間ずっと、「本当に当たるかもしれない」と思っていられて、ちょっとおトクな気がします。

■宝くじへの課税の問題
日本の宝くじが当たっても課税所得には一切含まれないのですが、海外で買った宝くじが当たった場合は、一時所得としてきちんと納税する必要があります。(追記: 但し、本人が現地で購入し換金した場合に限る。日本国内から海外宝くじを購入すること(代理購入含む)は、刑法187条違反で処罰の対象となる可能性があります。)

所得税と住民税を合わせると、それらを控除した最終的なリターンは、ドバイの宝くじの場合でも日本と同水準程度まで下がってしまうのです。

これを避けるには、日本を脱出して海外移住するのが一番良い方法と言えるでしょう。

■宝くじで夢を買いたい人へのアドバイス
もしあなたの周りに、「どうしても宝くじで夢を買いたい」と思っている人がいたら、「海外移住してドバイの宝くじを買うといいみたいだよ」と、アドバイスすると良いでしょう。

還元率の比較を具体的に示しながら、「ドバイの宝くじに比べると、日本の宝くじはこんなにボッタクリなんだよ」と、丁寧に説明してあげるのがポイントです。

普段、あまり確率や期待値で考えていなかった人に、そうした考え方を試してもらうチャンスです。

≪参考記事≫
■日本がギリシャより労働生産性が低いのは、当たり前。
■軽減税率で一番損なのは誰か、分かりやすく解説してみました。
■スター・ウォーズを特別料金にするのはともかく、日本がそもそもダントツに映画が高い件。
■借金返済のために風俗店で働く女子学生の問題が、本当は奨学金のせいではない明らかな理由。
■【日米比較】お金持ちは本当にケチなのか?

日本がギリシャより労働生産性が低いのは、当たり前。


今月18日、日本生産性本部が「日本の生産性の動向」2015年版を発表しました。

これに関連して、日本の労働生産性が経済協力開発機構(OECD)加盟34か国中21位と低迷し続ける状況について、日本生産性本部の茂木会長が、

「日本は勤勉な国で、生産性が高いはずと考えられるが、残念な結果だ」(『労働生産性、先進7カ国で最低 茂木友三郎生産性本部会長「勤勉な日本が…残念な結果」』、産経ニュース、2015/12/18)

とコメントしたことをきっかけに、「勤勉で真面目過ぎるからこそ生産性が低い」「いや、本当は勤勉でも何でもない」等々、多くの方が様々な意見を述べておられます。

茂木会長の「勤勉」発言に引きずられたのか、日本人が勤勉かどうかや、日本人の働き方にフォーカスした議論が多く見受けられるのですが、そうした議論の多くは、実は問題の本質をきちんと捉えてはいないのです。

■ギリシャが日本より労働生産性が高い最大の理由
「何故、国が破たん寸前のギリシャの方が日本より労働生産性が高いのか?」

労働生産性の国際順位のリストを見て、この点について直感的に疑問に思う人は少なくないでしょう。

レポートにも触れられているのですが、ギリシャのような国では、不況のため雇用調整が進んだことで、生産性の低い産業では雇用を十分に保てていない状況があるのだと考えられます。

図のモデルケースで考えてみましょう。

G国、J国はいずれも仮想の国。労働人口に対する生産性の高低による労働力の分布はどちらも同じですが、G国の失業率は22%、J国は4%です。

労働者全体の生産性は、失業率の高いG国の方が高く、生産性の低い産業の労働者が多く含まれる分、J国では低くなります。

ギリシャと日本を比べて、潜在的な生産性がどの程度違うのかは分かりませんが、日本の方がよほど効率的でない限り、労働生産性で見劣りしてしまうのは、きわめて当たり前のことなのです。

■労働生産性とは
そもそも、労働生産性の一般的な定義は、「付加価値額を労働投入量(労働者数または労働時間数)で割った額」です。例えば、財務省の法人企業統計では、付加価値額は人件費、支払利息等、賃借料、租税公課、営業純益の合計とされています。

上述の国際比較の場合は、「購買力で調整後のGDPを、就業者数で割った額」を労働生産性として用いています。(レポートP34)

労働生産性 = GDP ÷ 就業者数

ですので、当然、GDPが増えずに就業者が増えれば労働生産性は低下します。逆に、就業者の増加なくGDPを増やすことができれば、労働生産性は上昇します。

労働生産性が低い原因を働き方に求めるのは、一人一人が働き方を変えればGDPが上昇すると言っているに等しいわけです。

もちろん、働き方の問題も大いにあるわけですが、そこに重点を置きすぎて問題を矮小化してしまってはいけません。

■労働生産性は産業間で大きく異なる
次の図は、財務省の法人企業統計(H25)から、主な産業ごとの労働生産性を抜粋したものです。茶系色が製造業、青系色が非製造業、黄色はサービス業の内訳の一部です。(法人のみを対象としており、また、計算方法が異なるため、上述のGDPベースの労働生産性とは一致しません。)

この図からは、

・ 製造業 > 非製造業
・ 製造業の中では、繊維、食料品等が低い。
・ 非製造業の中では、農林水産業、小売業、サービス業等が低い。
・ サービス業の中では、飲食、医療・福祉等が低い。

といった傾向が、はっきりと読み取れます。(農林水産業や一部サービス業等、個人経営の割合が多い産業では、産業全体の労働生産性はさらに低くなる可能性があります。)

労働生産性の高い産業と低い産業とで、どちらの労働者の方が勤勉だとか、働き方が効率的だとか、そうした違いは本来それほど大きくありません。それにもかかわらず、労働生産性には大きな差が生まれているのです。

労働生産性の低い産業に共通するのは、人件費の安さと利益率の低さです。ですが、どちらも、上げろと言われて簡単に上げられるものではないでしょう。

先日も、最低賃金時給1500円を訴えたデモがニュースになっていましたが、人件費と固定費に利益を足して(=付加価値額)も従業員一人当たり年間320万円程度にしかならない現状の飲食業に、時給1500円を求めるというのは、無理ゲーとしか思えません。(参考記事「最低賃金1500円を要求する人たちが勘違いしていること。(中嶋よしふみ)」

「日本の労働生産性が低い」という問題は、労働者の勤勉さや仕事のやり方、利益の配分等ではなく、日本経済や産業構造全体の非効率性の問題だと考えるべきなのです。

■問題が山積み
日本経済の効率化を妨げる要因は多々あります。

・ 年々肥大化する高齢不労層
・ 補助金で生き長らえる非効率セクター
・ 流動性がなく、ブラックでも辞め難い雇用制度
・ 非効率な流通システム
・ 効率的に使われない過剰な手元資金
・ 行き過ぎた価格競争
・ 消費者のデフレマインド
・ 業者を搾りに搾る「お客様は神様」マインド
・ チャレンジを嫌う安定志向マインド
・ 「借金は悪」「金儲けは悪」という民間信仰
・ 収入増に貢献しない高等教育
・ 同調を好む「空気読め」マインド
・ etc.

と、少し考えただけで、いくつも出てきます。

日本人のマインドや人口動態の問題については、一朝一夕でどうにかできるものではないかもしれませんが、雇用制度や所得の再分配のように、政治で解決できるはずの問題も少なくはないはずです。

経済全体の効率化により、労働生産性向上、即ちGDP上昇がもたらされるという関係を、いま一度よく考えてみる必要があるのではないでしょうか。

以下の記事もぜひ参考にしてください。
■軽減税率で一番損なのは誰か、分かりやすく解説してみました。
■【日米比較】お金持ちは本当にケチなのか?
■スター・ウォーズを特別料金にするのはともかく、日本がそもそもダントツに映画が高い件。
■話題沸騰「正社員制度をなくしたらどうなるか問題」を、ファイナンス論的に考えてみた。
■借金返済のために風俗店で働く女子学生の問題が、本当は奨学金のせいではない明らかな理由。

馬券の税金問題でゾンビのような執念を見せる国税庁。無理筋への、最後の一手。


先月10日、最高裁は、多額の馬券の払戻金に係る脱税事件に関連して、馬券の払戻金を一時所得ではなく雑所得と認定しうる場合があるとの判断を示しました。

多くのメディアで、馬券の経費が認定されたと報道されていましたので、ご存知の方も多いのではないかと思います。一時所得では外れ馬券は絶対に経費認定されませんので、FX等と同様の所得区分である雑所得として扱われるかどうかというのは、外れ馬券を経費認定できるかどうかの最も重要なポイントです。

■馬券の所得区分についての最高裁の判断
この事件の被告男性のケースの所得区分について、最高裁は以下のように判断の根拠を示しています。

以上によれば,被告人が馬券を自動的に購入するソフトを使用して独自の条件設定と計算式に基づいてインターネットを介して長期間にわたり多数回かつ頻繁に個々の馬券の的中に着目しない網羅的な購入をして当たり馬券の払戻金を得ることにより多額の利益を恒常的に上げ,一連の馬券の購入が一体の経済活動の実態を有するといえるなどの本件事実関係の下では,払戻金は営利を目的とする継続的行為から生じた所得として所得税法上の一時所得ではなく雑所得に当たるとした原判断は正当である。

『平成26年(あ)第948号 所得税法違反被告事件平成27年3月10日 第三小法廷判決判決文』より抜粋。)

判決文の中で下線付きで記載されたこの箇所は、判決の中で最も重要な部分です。この中で、最高裁は以下の二つの判断をしています。

(a)「馬券を自動的に購入するソフトを使用して(中略)一体の経済活動の実態を有するといえるなど」の特徴を有する被告人男性の馬券購入は、「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」であること。
(b)「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」であるとみなされる場合は、馬券購入は雑所得に分類されるべきであること。

すなわち、(a)が本件固有のケースについての判断であるのに対し、(b)は馬券購入一般に関する判断となっています。

この確定判決を受け、国税庁には、最高裁が示した(2)の馬券購入一般について雑所得となる要件「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」について、その基準を明らかにすることが求められます。

この点、国税庁の対応は迅速でした。

最高裁判決の約二週間後、3月25日に、『「所得税基本通達の制定について」(法令解釈通達)の一部改正(案)(競馬の馬券の払戻金に係る所得区分)に対する意見公募手続』(いわゆるパブリックコメント)を開始したのです。

募集期間は30日。今週金曜4月24に期限が迫っています。

■何度倒されても起き上がるゾンビのような国税庁の執念
4月20日現在、パブリックコメント募集中の通達改正案を見てみると、以下のように書かれています。

法第34条((一時所得))関係
(一時所得の例示)
34-1 次に掲げるようなものに係る所得は、一時所得に該当する。
(中略)
(2) 競馬の馬券の払戻金、競輪の車券の払戻金等(営利を目的とする継続的行為から生じたものを除く。)
(注)1 馬券を自動的に購入するソフトウェアを使用して独自の条件設定と計算式に基づいてインターネットを介して長期間にわたり多数回かつ頻繁に個々の馬券の的中に着目しない網羅的な購入をして当たり馬券の払戻金を得ることにより多額の利益を恒常的に上げ、一連の馬券の購入が一体の経済活動の実態を有することが客観的に明らかである場合の競馬の馬券の払戻金に係る所得は、営利を目的とする継続的行為から生じた所得として雑所得に該当する。
2 上記(注)1以外の場合の競馬の馬券の払戻金に係る所得は、一時所得に該当することに留意する。
(略)

(『「所得税基本通達の制定について」(法令解釈通達)の一部改正(案)(競馬の馬券の払戻金に係る所得区分)に対する意見公募手続 意見公募要領【別紙】改正案』より抜粋。)

改正前は「(2)競馬の馬券の払戻金、競輪の車券の払戻金等」と一言あっただけですので、字数だけ見れば大幅改正のようですが、実際のところどうなのでしょうか。

(2)の主文については、「(営利を目的とする継続的行為から生じたものを除く。)」との但し書きがついたので、一見最高裁判決を真摯に受け止めたようにも見えなくもありません。しかし、注意書きを読むと、そんなつもりは更々ないことがよく分かります。

驚くことに、(注)1の文章は、上の判決文で(a)の個別ケースについて判断した際の文言をほぼそのまま持ってきたものです。そして、続く(注)2で、それ以外の場合は雑所得ではなく一時所得と決めつけているのです。判決文の文言をほぼそのまま採用しているからと言って、判決の主旨に真摯に対応していることにはならないことに注意しなくてはなりません。

ここで国税庁が主張しているロジックは、例えば、痴漢冤罪事件で「被告人は乗車中ずっと両手を上げていたので有罪ではない」との判決が出た後に警察が「じゃあ、ずっと両手を上げないやつは有罪だ」などと無茶な取締りをやるようなものです。

或いは、これもありえない例えですが、最高裁が「この車はトヨタなので日本車だ」と判断した後に、「トヨタは日本車、それ以外は日本車じゃない」と決めるようなものだと言えば、如何に無茶苦茶なのかが分かるのではないでしょうか。

国税庁には、トヨタだけじゃなく、日産やホンダも日本車だということを、ぜひとも考えていただきたいと思います。

■誰でも参加できるパブリックコメント
各種法案や通達案等に公衆から意見を募るのがパブリックコメント制度(パブコメ)です。日本の法制度設計に直接意見を言えるチャンスが、誰にでもあるのです。

ただ、誰でも意見を提出できるとは言え、普通は何を書いて良いのかも分からないことが多いと思います。

でも、今回の馬券の税金の問題はどうでしょうか? 競馬ファンであれば身近な問題ですし、その他の一般の方にとっても、比較的とっつきやすいトピックではないかと思うのですが。

これを機に、パブコメ・デビューを飾ってみるのも良いのでは?

パブリックコメントはこちらから。期限は2015年4月24日です。

私自身、これまで個人でパブコメしたことはありませんでしたが、今回は一言言わせてもらおうかなと考えています。

さすがにこれはちょっと酷いんじゃないですか、と。

以下の記事もぜひ参考にしてみてください。
■「馬券の税金」判決の影響は? ホリエモンとカジノ専門家のどちらが正しいか、JRA馬主の証券アナリストが解説します。
■ジャパンカップG1の時給は60億円!? 馬主という仕事の意外すぎる真実。
■有馬記念から考えるダブルバインドの克服方法。
■海外馬券の販売開始か?日本での馬券売上のインパクトとマネーロンダリングの可能性。
■借金返済のために風俗店で働く女子学生の問題が、本当は奨学金のせいではない明らかな理由。

■まとめ
・「馬券の税金」最高裁判決に対する国税庁の最後の一手、通達改正案がパブコメ中です。
・通達改正案は、最高裁判決を真摯に受け止めていないように思われます。
・関心のある方はぜひパブコメに参加してみてください。

日米の融資型クラウドファンディングは、似て非なるもの。日本のほうが圧倒的にイケてない件について。


週末にこんな記事を見つけました。

インターネットでお金の貸し手と借り手を結ぶ融資型のクラウドファンディングが伸びている。2014年末時点の累計融資額は310億円と、1年前の約2倍になった。国内ベンチャーキャピタルの大型ファンドに相当する規模だ。数万円からお金を出せるため、銀行の融資を受けにくいベンチャー企業などが活用している。金融庁は対価として株式を受け取る株式型も5月に解禁する。(日本経済新聞3月29日付朝刊『ネットで小口融資、1年で倍増』より抜粋。)

融資型のクラウドファンディング、日本で一般にソーシャルレンディングと呼ばれている投資商品の融資額がこの一年で倍増したというニュースです。

■ソーシャルレンディングとはどんなものか
日本でもクラウドファンディングという言葉がかなり浸透してきていますが、日本で通常クラウドファンディングと呼ばれているのは、クラウドファンディング四分類(寄付型、購買型、融資型、株式型)のうち、寄付型と購買型の二つ。何らかのプロジェクトを実現するための資金募集や、集めた資金で作成されるものを受け取る契約になっているものなどです。

これに対し、企業や個人の資金ニーズを満たすための融資による資金調達をクラウドファンディングの枠組みで行うのが、融資型クラウドファンディング、あるいはソーシャルレンディングと呼ばれるものです。欧米ではP2Pレンディング(Peer-to-peerレンディング)という呼称が一般的です。

日本のソーシャルレンディングの場合、基本的に借り手は事業者で、不動産購入資金や事業資金等のうち、担保掛目やスケジュール等の問題から銀行融資でまかない切れない部分が、ソーシャルレンディングによって調達されているようです。

投資の枠組みとしては匿名組合出資の形になっていて、投資家が組合に出資した出資金を元に、組合の営業者が事業者に資金を貸し出し、その元利返済金から営業者の利益や必要経費等を差し引いた金額が分配されます。匿名組合なので、分配金のうち利益となる部分は源泉徴収の対象となります。

リスクマネーですので、目標利回りは当然高く、国内への融資であれば4%~7%程度、海外へのマイクロクレジットでは10%超で募集されているようですが、目標利回りが高いということは、貸出先が返済不能となるリスクや、担保回収でカバーされないリスク、ソーシャルレンディング事業者又はその関連会社に信用事由が生じるリスク等が、相応に高いということです。

リターンとリスクがバランスを取るというのは、投資商品の基本中の基本です。どんな投資話にも必ず落とし穴がありますが、リターンが低い投資の落とし穴は通常小さく、リターンが高い投資の落とし穴は大きいのです。

■日本のソーシャルレンディングに欠ける新規性
上述のとおり、日本のソーシャルレンディングは、匿名組合方式のファンドに出資して、そのファンドが事業者に貸し出す、または事業者に貸し出す貸金業者に貸し出すという仕組みをとっています。この仕組みは普通の私募ファンドと同じで、ネットで募集して比較的少ない金額から投資できる以外は、特に目新しい点はありません。

先ほど、欧米ではPeer-to-peerレンディングという呼称が一般的だと書きましたが、慣例の問題だけではなく、同じ融資型クラウドファンディングとは言っても、日本ではそう呼ぶことができない理由があります。

Peer-to-peerには、借り手と貸し手を直接結ぶという意味合いがあるのですが、じつは日本のファンド型ソーシャルレンディングは、基本的に投資家が自ら借り手を選んで投資する仕組みがありません。これに対し、欧米のP2Pレンディング・プラットフォームでは、投資家が自ら直接、自分が資金を貸し出す相手と金額を指定する仕組みを実現しているのです。

例えば、融資型クラウドファンディング世界最大手でニューヨーク証券取引所への上場も果たしているLendingClub社(以下、LC社)の場合は、投資家が選んだ借入希望者に対して銀行が貸し出した個別の消費者ローンをLC社が買い取った上で、ローンの返済金と同額(但し、回収業務の費用を差し引き後)のキャッシュフローを受け取ることのできる社債をLC社が発行し、投資家がそれを購入するという形(注1)で、Peer-to-peerを実現しています。これは新しい仕組みです。

「既存の私募ファンドの枠組みをまったく超えずに募集だけネットでやりました」という日本の融資型クラウドファンディングは、欧米の融資型クラウドファンディングとはまったくの別物として理解する必要があるでしょう。

■日本のソーシャルレンディングの最もイケていない点
日本のソーシャルレンディングの一番の問題は、投資のリスクがどの程度あるのかという点がさっぱり分からないものが非常に多いという点です。米国P2Pレンディングの基準で考えた場合、ほとんどがそうだと言っても言い過ぎではないかもしれません。

先ほどのLC社の場合、借入希望者の過去の借入履歴等の信用情報や年収、職業、個人の信用度を示すFICOスコア、LC社の信用モデルによる格付等、多くの情報が投資家に開示されるだけでなく、過去の全債務者についての同様の情報のほか、全債務者のすべての返済履歴についても開示しています。

そうした情報が開示されているからこそ、投資のリスクを定量的に理解することが可能となり、Peer-to-peerが成り立つのだとも言えます。

翻って、日本の場合は、投資対象の事業者の財務や事業についての情報、担保価値や担保余力等、回収可能性について合理的に判断する材料が十分でないケースがやけに目立ちます。いくら利回りが高くても、リスクが計れないのであれば、投資商品としては欠陥商品だと言わざるを得ません。

個人的には、融資型クラウドファンディングのような、オープンに募集されるリスク性の投資商品というのは選択肢の一つとしては面白いと思っていますので、リスクに関する情報開示を充実させるといった、市場を健全な形で発展させるためのたゆまぬ努力を、融資型クラウドファンディング業者の皆さんには期待したいと思います。

ぜひ以下の記事も読んでみてください。
■映画「イミテーション・ゲーム」の暗号解読ミッションを、「魚のムニエル」で解説してみました。
■不遇の天才チューリングの半生を描いた脚本家が感動のアカデミー賞スピーチで訴えた、日本に一番足りないもの。
■「100分中20分が性描写」と話題の女性向け官能恋愛作品がもたらした衝撃と、大人の事情。
■ちきりんvsイケダハヤト「通勤手当廃止」論争で語られなかった「住まいの問題」緩和策。
■借金返済のために風俗店で働く女子学生の問題が、本当は奨学金のせいではない明らかな理由。

■まとめ
・融資型クラウドファンディング市場が、日本でも拡大しつつあるようです。
・ソーシャルレンディングと呼ばれる日本の融資型クラウドファンディングは、これまでもあった私募ファンドをネットで小口で募集しているだけで、欧米等と比べ新規性に欠けます。
・欧米の融資型クラウドファンディングはP2Pレンディングと呼ばれ、貸し手と借り手を直接結び付けるものです。
・日本のソーシャルレンディングは、リスクに係る情報開示が不十分です。情報開示等を進め、市場が健全に拡大するよう、融資型クラウドファンディング業者は努力すべきです。

(注1)証券化と似ていますが、ローンはLC社のバランスシートに載ったままとなります。

不遇の天才チューリングの半生を描いた脚本家が感動のアカデミー賞スピーチで訴えた、日本に一番足りないもの。


現在公開中の映画で鑑賞後の評価が最も高いのではと言われているのが、知る人ぞ知る超天才アラン・チューリングの半生を描いた『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』です。Yahoo!映画のユーザーレビューでは、3月25日現在、4.52の高評価となっています。

映画はドイツの暗号エニグマの解読に挑むシーンを中心に進行するのですが、原題のタイトルでもある「イミテーション・ゲーム」は暗号解読のことを言っているわけではなく、人工知能の父と呼ばれるチューリングが考案した、機械が人工知能と言えるかどうかを判定するチューリングテストを意味しています。この点を念頭に置きつつ、チューリングの言葉や感情の動きに気を配りながら映画を観ることで、この映画が本当に伝えたいことについて、少し深く考えることができるかもしれません。

私もとりあえずもう一度観てみようかなと思っています。遥か昔、学部時代に専門だった暗号学と回路に関係する話でもあり、一度目は素直に夢中になり過ぎました。

■感動を呼んだアカデミー賞受賞スピーチ
先日の第87回アカデミー賞で最も感動を呼んだのが、この映画で脚色賞を受賞した脚本家のグレアム・ムーア氏の受賞スピーチでした。

“心苦しいことです。アラン・チューリングがこのような舞台に立って、そして困ってしまうくらいに魅力的な皆さんを見渡すことは、決してありませんでした。私はしています。そしてこれは、私の知る限り最もアンフェアなことです。
つまり、このような機会を頂き私が言いたかったのは、このことなのです。16歳のとき、私は私自身を殺そうとしました。自分が変わっていると感じ、自分が他人と違っていると感じ、そして、自分はどこにも属さないと感じていたからです。そして、いま私はここに立っています。このひとときを、自分が変わっている、自分は他人と違う、自分にぴったり合う場所はどこにもないと感じている子供のために捧げたいと思います。あなたは(どこかには)ぴったり合っているのです。私が請け合います。ステイ・ウィアード、ステイ・ディファレント、そして、あなたの番になって、あなたがこの舞台に立つ時に、どうか同じメッセージを次に続く人に渡してください。ありがとうございました!”(注)

既にエンタメ系メディア等で紹介されている訳文は、こなれた日本語に置き換えているものばかりですが、ここでは敢えて、できる限り原文に忠実に、直訳に近い形で訳してみました。そうすることで、ムーアのメッセージをより正確に受け取ることができると思うのです。

「ステイ・ウィアード、ステイ・ディファレント」は、「(そのまま)奇天烈であれ、異質であれ」と言う意味ですが、もちろんこれは、スティーブ・ジョブズのスタンフォード大学での名スピーチ「ステイ・ハングリー、ステイ・フーリッシュ」に掛けています。そうした理由も思い当ります。

じつは、本当のところは分からないのですが、アップル社のロゴであるかじったリンゴは、青酸カリ入りのリンゴを食べて自殺したとされているチューリングへのリスペクトを表しているとも言われているのです。アラン・チューリングは、コンピューターサイエンスの世界では史上最高の功労者とされているため、実際にジョブズにそうした意志があったとしてもおかしくはありません。

ムーアはおそらく、疎外感を感じている普通とどこか違う部分のある子供たちに、単に「そのままで良いんだよ」と言ってあげているのではないのだと思います。そこには、ジョブズが次代を担う若者に託したように、自分が本当に大切だと思っている価値観を後世に繋ぎたいという明確な意思があるのです。

ムーアは言っています。次はあなたがここに立ち、後継に繋げよと。そうなるために、相応の困難を乗り越えよと、暗に言っているのです。

チューリングがしたように。

自らがそれに続いたように。

■異質であること、それ自体に価値がある
ムーアが映画やスピーチを通して伝えたかった一番大事なことは、「他人と違っていても大丈夫だよ」みたいなありがちな柔らかいものではなく、「異質であること自体に価値がある」という強いメッセージなのだと、私は考えています。

誰もが異質であることを望まない状況は、順調なときはとても強固に見えるのですが、一旦それが破たんすると雪崩を打って崩れ去り、じつはとても脆弱だったということが分かります。

政府も軍もメディアも国民も、皆が何かに憑りつかれたかのように戦争に邁進した時代の日本を例にあげるまでもありません。「空気読め」的な同調圧力の強い日本では、経済や政治、社会、会社、学校、家庭等、あらゆるレベルで、他人と異なることを良しとしないが故の脆弱さが問題になっているように感じます。

例えば、経済では1990年代のバブル崩壊や2000年代の金融ショック等、いずれも皆が極端に同じ方向を向いていたことが、問題が拡大した大きな要因となりました。

政治では鳩山ショック、震災後の過剰な「自粛」が求められる空気、前例主義で無駄な手続きの多い社内決裁、個性を伸ばせない学校教育、皆が同じようなスーツを着て同じように疲弊する就活、子供たちを蝕むいじめ問題、、、本当にたくさんあるように思います。

異質な存在は、高層ビルの制振構造のように、全体が一方向に振れるのを抑える効果を持っています。

同調圧力の強い日本でこそ、「ステイ・ウィアード、ステイ・ディファレント」というムーアのメッセージを大事に考えるべきではないでしょうか。

以下の記事も是非参考にしてください。
■「100分中20分が性描写」と話題の女性向け官能恋愛作品がもたらした衝撃と、大人の事情。
■有馬記念から考える「にっちもさっちもいかない状況」の克服方法。
■話題沸騰「正社員制度をなくしたらどうなるか問題」を、ファイナンス論的に考えてみた。
■ちきりんvsイケダハヤト「通勤手当廃止」論争で語られなかった「住まいの問題」緩和策。
■借金返済のために風俗店で働く女子学生の問題が、本当は奨学金のせいではない明らかな理由。

■まとめ
・不遇の超天才アラン・チューリングの半生を描いた映画『イミテーション・ゲーム』が高評価を得ています。
・感動を呼んだ脚本家のアカデミー賞受賞スピーチは、大事な価値観を後継に繋ぐ素晴らしいメッセージです。
・「ステイ・ウィアード、ステイ・ディファレント」は、同調圧力の強い日本でこそ大事に考えるべきでしょう。

(注)スピーチ全文

“Here’s the thing. Alan Turing never got to stand on a stage like this and look out at all of these disconcertingly attractive faces. I do. And that’s the most unfair thing I’ve ever heard. So, in this brief time here, what I wanted to do was say this: When I was 16 years old, I tried to kill myself because I felt weird and I felt different, and I felt like I did not belong. And now I’m standing here, and so I would like this moment to be for this kid out there who feels like she’s weird or she’s different or she doesn’t fit in anywhere. Yes, you do. I promise you do. Stay weird, stay different, and then, when it’s your turn, and you are standing on this stage, please pass the same message to the next person who comes along. Thank you so much!”
(『“This unsuspecting Oscar winner gave the most inspiring speech of the night”, Business Insider, 2015/2/23』より抜粋。)

「馬券の税金」判決確定で、色めき立つのは詐欺師たち? 「必勝ソフト」詐欺に御用心。


本日、3月10日、競馬関係者と税務当局にとっての一大ニュースが発表されます。

先日報じられたように、5億7千万円を脱税したとして馬券の払戻しを申告しなかった会社員男性を大阪国税局が所得税法違反で告発した件で、今日、最高裁が判決を言い渡す予定となっているのです。

すでに高裁判決のまま確定するのが確実視されており、馬券購入であっても一定の条件を満たすことで、今後は一時所得ではなく雑所得として申告できるようになります。但し、「一定の条件」をどう決めるかについては不透明なままですので、当面はケースバイケースで税務当局と調整することになると思われます。

■市場には出回らない「必勝ソフト」
先日、判決が確定する見込みとなった直後に書いたエントリーでは、ホリエモンこと堀江氏のコメントに乗っかったカジノ専門家木曽氏のブログ記事にさらに乗っかる形で、競馬「必勝ソフト」が導入された世界について、簡単なシミュレーションを元に想像してみました。

必勝ソフトの存在を前提とした、いわば戯言のような記事だったわけですが、競馬市場の仕組みに興味がある人であれば、それなりに面白く読んでいただけたかなとは思います。

ところで、必勝ソフトなんて、実際にはあり得るのでしょうか?

必勝ソフトを文字通り必ず勝つソフトとすれば、そんなものはあり得ないでしょう。平均的に回収率がプラスになるソフトと定義するのであれば、それは実現可能かもしれません。

競馬市場というのは、売買手数料が20~25%程度差っ引かれるマーケットですので、平均でプラスになるのは並大抵のことではありませんが、馬券市場の偏差値で80オーバーとか、そのくらい優秀であれば、もしかしたら可能かもしれません。

ですが、仮にそういうものがあったとして、それは絶対に市場には出回らないでしょう。「本物」を他人に提供するメリットがまったくないからです。市場に出回るとすれば、偽物か、本物であればそれが陳腐化したときです。

■ギャンブル詐欺にご用心
ある意味、「儲かる馬券購入システム」が解禁されるとも言える今回の確定判決は、ギャンブル詐欺を生業にしている犯罪者たちにとって、必勝ソフト詐欺や必勝法詐欺の大チャンスとも言えるわけです。

ギャンブル詐欺は、振り込め詐欺や金融商品詐欺と同様に「特殊詐欺」に分類されていますが、それらと同様に高齢者の被害が多く報告されています。若年層も少なからずいるのですが、一番のボリュームゾーンは高齢者なのです。

しかも、ギャンブルと言えば男性のイメージが強く、実際、若年層では男性の被害が多いのですが、高齢者に限って言えば、女性の被害の方が多く報告されています。これも、他の特殊詐欺と似通った傾向と言えます。

高齢の方には特に気をつけていただきたいのですが、競馬ファンの方も、そうではない方も、世の中そんな美味しい話はないのだということを、改めて肝に銘じおきいただきたいと思います。

あなたの前にあらわれる「必勝ソフト」や「必勝法」の美味しい話は、ぜーんぶ詐欺ですから。

馬券と競馬等については、是非、以下の記事も参考にしてください。
■「馬券の税金」判決の影響は? ホリエモンとカジノ専門家のどちらが正しいか、JRA馬主の証券アナリストが解説します。
■ジャパンカップG1の時給は60億円!? 馬主という仕事の意外すぎる真実。
■有馬記念から考える「にっちもさっちもいかない状況」の克服方法。
■海外馬券の販売開始か?日本での馬券売上のインパクトとマネーロンダリングの可能性。
■借金返済のために風俗店で働く女子学生の問題が、本当は奨学金のせいではない明らかな理由。

■まとめ
・馬券を継続的に買う場合に外れ馬券も経費に算入できるとの判決が、今日、最高裁で確定します。
・雑所得と一時所得の明確な線引きのルールがないため、今後は当面ケースバイケースで税務当局と調整することになります。
・必勝ソフトは市場に出回らないため、美味しい話があれば間違いなく詐欺でしょう。(詐欺師にとってはビッグチャンス。)
・ギャンブル詐欺でも、高齢者(特に女性)の被害が多く報告されています。
・美味しい話はないのだということを、肝に銘じておきましょう。