シリア・パルミラ遺跡

一旦ISを追い出したはずのパルミラが再度ISに制圧されたとのニュース。残念でなりません。下手な写真ばかりですが、破壊前のパルミラの様子を少しでも多く残すべくシェアします。すべて1995年のものです。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

素晴らしい遺跡だったんです。

キュレーションメディアによるパクリ問題について


アーレントの言う「悪の凡庸さ(the banality of evil)」がパクリ問題に通じるという佐渡島さんの指摘。

東芝の不正会計なんかもたぶん同じだ。

それをやっている一人一人がその不正行為を自分の責任であると認識しない仕組みの中で自ら不正を改めていくのは簡単ではない。

誰でも知らない間にアイヒマンになってしまう可能性があるのだろう。

「女性就労増加で労働生産性が過去最高」って本当!?


日本の労働生産性が最新の統計で過去最高を更新した、というニュースはご存知でしょうか?

私たちが普段目にする日本の労働生産性について伝える情報には、「他の先進国に比べて低すぎる」「無駄な残業が多いせいだ」等々、とかくネガティブなものが目立つので、「過去最高」と言うのは、意外に感じる方も多いかもしれません。

■名目労働生産性は過去最高水準に
日本生産性本部が今月初めに発表した2016年版「日本の労働生産性の動向」によれば、最新のデータである2015年度の時間あたり名目労働生産性は4,518円で、過去最高を8年ぶりに更新しました。これまでの最高値が4,416円だったので、実に100円以上も上回ったことになります。

それほど大きなニュースになった記憶はないのですが、これをメディアはどのように報道したのでしょうか? Google検索では、日本経済新聞と読売新聞が報道していたことが確認できましたが、総じてあまり大々的には報じられていなかった印象です。

その中で、このニュースを「名目労働生産性、8年ぶり最高 女性就労増加で」との見出しを打って報じたのが、日本経済新聞です。

日本生産性本部は日本の名目労働生産性が2015年度に1時間あたり4518円と前年度に比べ2.3%増えたとの調査結果をまとめた。4年連続で増え、8年ぶりに過去最高を更新した。短時間労働が多い女性の就労が増えたため。ただ欧米に比べると生産性はなお低い。長時間労働の是正や在宅勤務の推進などを通じ、生産性をさらに引き上げる必要がある。(日本経済新聞電子版、2016/10/31付)

短い記事ですが、「短時間労働が多い女性の就労が増えた」ことが、時間あたり労働生産性が過去最高まで改善した要因だと、はっきりと書いています。

これが本当なら、本当に凄いことだと言えるのではないでしょうか?

■女性就労増は労働生産性を向上させる?
この、「女性の就労増加によって一人あたり労働時間が短縮され、それによって時間あたり労働生産性が改善された」というストーリーは、本当にそうであればとても素晴らしいことですし、政府が喫緊の課題として掲げている「女性の活躍促進」や「長時間労働の抑制」に向けた取り組みを強力にサポートするものになるでしょう。

労働生産性は、アウトプット(付加価値額や生産量など)をインプット(労働投入量)で割ることで得られる指標です。労働投入量として労働者数を用いれば一人あたり労働生産性、総労働時間(=労働者数×一人あたり労働時間)を用いれば時間あたり労働生産性です。

時間あたり労働生産性 = 生産量÷(労働者数×一人あたり労働時間)

ですので、時間あたり労働生産性を向上させるには、(1)~(3)の少なくともいずれかが必要になります。
(1)生産量を増やす
(2)労働者数を減らす
(3)一人あたり労働時間を減らす

参照した日本経済新聞の記事は、男性と比べて短時間勤務の多い女性の就労が進んだことで(3)が実現し、時間あたり労働生産性が改善した、という思考になっているのでしょうか。計算式だけを見れば、確かにそう言えなくもないように見えるかもしれません。しかし、そこには、とても基本的ではあるものの意外にやりがちな、大きな間違いが一つあるのです。

■時間短縮が生産量を減らすのは当たり前
当然ですが、労働生産性向上の3つの条件は、互いに無関係ではありません。例えば、工場のラインのような仕事であれば、労働時間を減らせば生産量はそれに比例して減少します。ここで、インプットとアウトプットが同時に同じように減ってしまっては、生産性はまったく改善しません。インプットよりもアウトプットの減りが緩やかな場合は、労働生産性は改善します。増やす場合の考え方も同様です。

すなわち、仮に、短時間労働が多い女性の就労割合を増やすことで時間あたり労働生産性が上がったとすれば、それは「短時間労働が多い女性」の労働生産性がそもそもそれ以外の人たちの労働生産性よりも高かった、というだけのことなのです。

では、実際にはどうなのでしょうか? 個別に見るのであれば、そういうケースも大いにあるかもしれません。ですが、一般論として考えた場合、パートタイム労働者の時間あたり労働生産性が労働者全体の時間あたり労働生産性よりも高いとすることは、合理的とは言えないでしょう。

「女性就労が増えたら労働生産性が過去最高を更新した」という話は、勘違いだったわけです。

■問題はごちゃ混ぜにしない方が良い
労働生産性問題は、長時間労働問題や女性の就労問題と併せて語られることが多いのですが、実はそうした議論は日本の労働生産性問題の本質ではないと、筆者は考えます。女性の就労促進も、長時間労働の解消も、日本に暮らすすべての方の厚生のために大いに進めて欲しい大事なことです。ですが、それらを労働生産性対策としてことさら取り上げることで、日本の労働生産性の本当の問題への焦点を曇らせることになっていないかと。

上述の通り、女性の就労をどれだけ促進しても、女性の労働生産性が男性の労働生産性よりも高くなければ全体としての労働生産性は改善しません。長時間労働の解消は、それが非効率な残業時間の短縮という形であれば、時間当たり労働生産性の改善には寄与するでしょう。ですが、時間当たり労働生産性だけではなく一人あたり労働生産性も低いのが、国際的に見た日本の特徴ですので、その効果はあくまでも限定的です。

日本の労働生産性の問題は、端的に言えば、労働投入量のわりに、付加価値が、生産量が、少ないという問題です。そのうち働き方改革で改善できるのは、いいとこ一割程度でしょう。インプットのほうをゴニョゴニョ弄るのではなく、同じ投入量でどうやったらより大きなゲインが得られるのか、国や企業や国民一人ひとりが、その方向で見据えて行った先にこそ、日本の未来があるのだと思います。

【参考記事】
■日本がギリシャより労働生産性が低いのは、当たり前。
■日本が先進国で最下級だという「幸福度」ランクについて、みんなが勘違いしていること。
■日銀のマイナス金利政策は、大成功だが、大失敗だ。
■報道の自由度ランキングは、どう偏っているのか。
■映画『マネー・ショート』を見ていて混乱するのは、「空売り」を予習したせいだ。

誰も言わない、東京ディズニーリゾート「顧客満足度」が急落した本当の理由

いくつかのディズニーのお城のモデルになったと言われるドイツ・ノイシュバンシュタイン城

日本生産性本部「サービス産業生産性協議会」が先月発表したエンターテインメント部門の2016年度顧客満足度指数(JCSI)は、前年度同様、東京ディズニーリゾート(TDR)にとって極めて厳しい結果となった。
(注:JCSI(Japanese Customer Satisfaction Index、日本版顧客満足度指数)は、米ミシガン大が開発したCSI(顧客満足度指数)を元に、官民協力のもとサービス産業生産性協議会が開発した顧客満足度指数。)

■急落した「顧客満足度」
TDRの過去5年間のJCSI顧客満足度の推移は以下の通り。2016年度は、過去最高であった2013年度の86.8を約10ポイント下回る77.1となった。指数急落が大きく報道された前年度調査をも下回る水準である。2014年度以降の大幅下落は、“指数の傾向として”は明らかだろう。

2012年 85.7
2013年 86.8
2014年 82.7
2015年 77.9
2016年 77.1

しかし、筆者がここでわざわざ“指数の傾向として”と書くのは、この“顧客満足度指数の変化”がTDRの“実際の顧客満足度の変化”を意味するかと言えば、必ずしもそうではないからだ。

では、なぜそう言えるのか?

それについて答える前に、まず、TDRのJCSI顧客満足度急落がどのように報道されたのか振り返ってみよう。

■急落の理由はどう報じられたか
TDRの「顧客満足度」が急落した要因について最も詳しく報じたのは、YOMIURI ONLINE(2016/1/6付)の『「夢の国」東京ディズニーリゾートに異変の兆し』だろう。執筆者の法政大学経営大学院小川教授はJCSI開発の座長を務められた方で、一般に入手可能なニュースリリースでは分からない点等も含め、詳細に分析されている。

記事で小川教授が指摘したのは以下のようなポイントだ。特に、初めの二点については同意される方も多いのではないか。

・ 値上げによる値ごろ感の低下。
・ 利用客のマナー低下と雰囲気悪化。
・ 感動(期待を上回る印象)の低下と、失望(期待ほどではない印象)の増加。
・ アトラクションの品質評価の低下。

記事ではこれらの点について、TDRと似通った業態であるユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)等との比較を行っているのだが、2014年以降ややポイントを落としたTDRと比べ、USJは横ばいかやや良化しており、好調さが見て取れる。絶対水準ではいずれもまだTDRの方が上回っており、かつては大きかったTDRのリードをUSJが徐々に詰めてきた形だ。

筆者は、こうした指摘は妥当なものだと考えている。特に、他の施設との比較は、TDRの今後を考える上で示唆に富むものになろう。

しかしながら、TDRの“実際の顧客満足度の低下”があったかと聞かれたら、「2013年以降のJCSI顧客満足度指数からはそれは判断ができない」としか言えない。何しろ、“実際の顧客満足度”は、むしろ改善した可能性すらあるのだから。

■「顧客満足度」急落の本当の理由
筆者が“実際の顧客満足度”がこの数年でどう変化したのか分からないと主張する理由は明確だ。実は、JCSI顧客満足度指数のエンターテイメント部門の調査は、最近では2014年と2015年の二度、調査対象者を選ぶ基準を弛めている。弛めた結果、調査対象者の平均的な属性が変わってしまったのだ。

2013年以降の調査対象者(各300人)の選定基準は、概ね以下のようなものだ。

2013年: 最近1年間で2回以上利用した。料金は自分で支払った。
2014年: 最近1年間で2回以上利用した。料金がいくらか知っている。
2015~2016年: 最近1年間で1回以上、2年間で2回以上利用した。料金がいくらか知っている。

2014年の変更による指数への影響を推計するのは困難だが、ネガティブな影響があっただろうことは容易に推察できる。一方、2015年の「1年で2回の利用実績」から「2年で2回の利用実績」に基準を弛めた影響については、簡単な推計を試みた。

この点について、末尾の参考記事『サンプリングの基準が変更された場合のサンプル構成の変化について』で、テーマパークの利用頻度に関するある調査結果をベースに推計を行ったところ、年に2回程度以上利用する層をA、年に1回程度以下しか利用しない層をBとすると、調査対象者の内訳(A:B)は、2014年基準で概ね2:1~3:1、2015年基準で概ね1:1となった。

Aは言うまでもなく、TDRへの“思い”が「濃い人」であり、Bはそれが「薄い人」である。すなわち、2015年の基準変更は、「濃い人」の比率を1/2~1/3程度に薄める変更だったのだ。

ちょうど良い具合だっためんつゆに、後から同量の水を入れてしまったようなもので、味が大きく損なわれてしまうのは当たり前だろう。

簡単な数字で考えてみるのも良いだろう。仮に、Aの“実際の顧客満足度”が90で、Bが60であったとすると、2014年基準による調査対象の平均は80~82.5、2015年基準による調査対象の平均は75となる。これは大きな違いだ。

■無視されがちな統計の基本中の基本
統計調査でおそらく最も重要なプロセスが、調査対象の抽出(サンプリング)である。今回のケースのように、基準変更が調査対象の構成に大きく影響したと考えられる場合は、一見同じように調査していたとしても、もはや同じ調査とは言えない。調査対象の属性が変わった統計は、直には比べられないのだ。

学術論文等を除けば、統計データの調査対象がどのように決められたのか明らかにされないままに参照されることは少なくない。どのように作成され、どのような傾向があるものなのか、フェアなのかどうか、そういうことが吟味されずにランクや指標だけが独り歩きすることがあまりにも多い印象だ。

センセーショナルな結果やインパクトのある数字を好むのは、メディアの習性とも言える。それは必ずしも実態を適切に伝えるものではないということに、読者の側も留意すべきだろう。

繰り返しになるが、TDRの“実際の顧客満足度”がこの数年でどう変わったのかは、件の調査結果では分かりえない。「夢の国」の魔法は、まだ解けてはいないかも知れないのだ。

【参考記事】
■日本が先進国で最下級だという「幸福度」ランクについて、みんなが勘違いしていること
■報道の自由度ランキングは、どう偏っているのか
■日本がギリシャより労働生産性が低いのは、当たり前
■日銀のマイナス金利政策は、大成功だが、大失敗だ
■サンプリングの基準が変更された場合のサンプル構成の変化について

【追補】
・ 「現基準の方が一般の認識に近いのでいいじゃないか」との意見はその通りですが、ここで主張しているのは、異なる基準で得られた結果を比較して上がった下がったと騒ぐのがナンセンスだという点です。

・ 調査対象基準緩和にも拘わらず指標が改善傾向のUSJは、「最近頑張ってるな」という印象そのままということでしょう。

・ エンタメ部門でも宝塚歌劇団等の観劇系は、年に数回から数十回も通う熱烈なファン層と、記念行事的に行く一般層に極端に二分されており、年に一二度行くという中途半端な層が相対的に少ないため、基準変更の影響は軽微だったと考えています。宝塚は、友の会に入会しても「ステイタス」を上げないとチケットをとることが困難なレベルで、友の会以外では大手の旅行会社による手配くらいのようです。

サンプリングの基準が変更された場合のサンプル構成の変化について。


標本調査の基本中の基本として、標本をサンプリングする基準が調査目的に照らして合理的かつ一貫しなければならないのだが、巷に溢れる統計資料の中には、ここに問題があるケースもあるようだ。また、調査自体に問題がなくとも、調査主体や報道機関等が調査結果を用いる際に、適切ではない解釈をする場合もある。

ここでは、サンプリングの基準が変更された場合のサンプル構成の変化について、「遊園地へ行く頻度」を基準として採用した場合を例に考えてみる。

推計の元になる「遊園地へ行く頻度」のデータは、インターワイヤード㈱運営のネットリサーチDIMSDRIVEによる公開テーマ別調査「『遊園地』に関するアンケート」の結果の一部を参考にした。この調査は、2010年5月に実施され、全国の男女8,164人を対象としている。

■サンプリング基準変更の影響を推計
「遊園地へ行く頻度」が、

①直近1年に2回以上行った
②直近1年に1回以上かつ直近2年に2回以上行った

の間で、どの程度違うのかを検討する。

まず、最初の表では、「遊園地へ行く頻度」の問いに対する答えのグループごとに、①と②、それぞれの条件をクリアする確率を、大雑把にではあるものの妥当と思われる水準に設定した場合に、サンプル(計300人)の構成がどう変化するのかをまとめた。

半年に一度程度以上遊園地に行くグループをA、一年に一度程度以下しか遊園地に行かないグループをBとすると、①のサンプリング基準では、標本内でのAとBの比率は 3:1程度である一方、②のサンプリング基準では、AとBの比率は 1:1程度である。


二つ目の表では、「遊園地へ行く頻度」の問いに対する答えのグループごとに、①と②、それぞれの条件をクリアする確率を、初めに推計している。推計のベースは、グループごとに設定した「任意の一週間に遊園地に行く確率」の仮定である。

先ほどと同様、半年に一度程度以上遊園地に行くグループをA、一年に一度程度以下しか遊園地に行かないグループをBとすると、①のサンプリング基準では、標本内でのAとBの比率は 2:1程度である一方、②のサンプリング基準では、AとBの比率は 1:1程度となった。

■結論
「遊園地へ行く頻度」を「①直近1年に2回以上行った」から「②直近1年に1回以上かつ直近2年に2回以上行った」に変更することで、標本内におけるグループAのグループBに対する重要度は、1/2程度から1/3程度に低下すると考えるのが妥当であろう。

統計データを時系列で眺めたりクロスセクショナルに比較する場合に、こうしたサンプリングの違いによる偏りを十分に考慮すべきことが極めて重要であるのは、言うまでもない。

ポケモンGOをどれだけやるとポケモンを全種類集められるのか? 本邦初!?ポケモン図鑑完成まで1万人分シミュレートしてみた。

※ 「サーチ・アプリ」や「脱獄」等の「不正」によってポケモン収集を極端に効率化することは可能ですが、当然ここでは「不正」を行わない前提で計算しています。


「ポケモン図鑑を完成させるまでは止められないな。」

公開当初の異様な盛り上がりが収まりつつある中、そんなことを考えながら、昨夜もポケモンGOをプレイしていました。

■終わりが見えない仕事はつらい
ポッポやコラッタのようなどこにでもいるポケモンを捕まえながらのんびりゲームを楽しめる人や、他プレイヤーとのバトルを中心にやっている人は別ですが、筆者がそうであるように、おそらく多くのプレイヤーにとっては「ポケモン図鑑の完成」という目標が、ポケモンGOを続ける大きなモチベーションとなっています。

流行に乗ってポケモンGOを始めたものの早々に止めてしまった人たちの中には、思うようにポケモンを集められないことに嫌気がさしたという方も少なからずいることでしょう。ポケモンを捕まえることを義務や作業のように感じてしまうと、捕まえても捕まえても終わりが見えない状況はまさに苦行です。

では、実際のところ、どのくらいポケモンを捕まえれば全種類集められるのでしょうか? ポケモンGOプレイヤーにとって重要なこの関心事を、証券分析に用いるシミュレーションの手法によって検討してみましょう。

■1万人分のシミュレーション結果
シミュレーションでは、仮想のプレイヤー1万人がポケモン図鑑を完成させるまでに、各々何匹のポケモンを捕まえたのかを計算しました。各ポケモンとの遭遇確率は、ポケモンGOに関する英語ニュースサイト「Pokemon GO Hub」の8/26付記事に掲載されたデータに独自の補正を加えた確率分布に基づいています。
(但し、「進化」による新たなポケモンの獲得は反映していますが、個人差が大きい「卵の孵化」によってポケモンが生まれる効果は反映させていません。最近リリースされた「相棒」機能についても同様です。)

シミュレーション結果は、図の通り。最頻値周辺(=捕獲数3万5千匹前後の山の高い部分)に集中する一方で、捕獲数が多くなる右方向に太く長いテールを持つ、いわゆる「ファットテール」と呼ばれる分布です。これは、プレイヤーの大部分が比較的リーズナブルな捕獲数で図鑑を完成させる一方、一部の人は気が遠くなるような数のポケモンを捕えなければならないことを意味しています。

仮想の1万人の中で、最少捕獲数でポケモン図鑑を完成させた最も幸運なプレイヤーが捕えたポケモンの数は8,978匹でした。1万匹に満たない数のポケモンで図鑑をコンプリートした唯一のプレイヤーです。逆に、最も手間がかかってしまったケースでは、実に38万匹近くのポケモンを捕まえてようやく図鑑を完成させることができました。

ダメなときが物凄くダメで、且つ、そうなる確率が意外に高いのが、リーマンショックなどの金融危機でおなじみ「ファットテール」の特徴です。証券投資の世界では、ファットテールのハイリスクを理解して織り込むことがリスク管理の観点から重要なのですが、ポケモンGOの場合はどうなのでしょうか。

シミュレーションの結果をもう少し詳しく見ておきたいと思います。

1万人の仮想プレイヤーのちょうど真ん中、図鑑完成時の総捕獲数の中央値は38,343匹でした。3万8千匹ほど捕まえれば、2人に1人はポケモン図鑑を完成できるということです。また、概ね6万5千匹捕まえることで、5人中4人が図鑑を完成できます。その一方、ポケモンを10万匹捕まえても終われないプレイヤーも全体の7%程度おり、100人に1人は、ポケモンを16万匹以上捕まえても全種類をコンプリートできないのです。

■図鑑完成には、どのくらいの時間がかかるのか
「ポケモンを○万匹捕まえる」という表現では、それがどのくらいの労力なのか、ややイメージしにくいかもしれません。そこで、上にあげた主な数字を、大雑把に時間換算してみることにします。採用する換算レートは、

1時間 = ポケモン20匹

です。時間あたり何匹のポケモンを捕まえられるかは、アイテムの利用や特定の場所、移動方法等、様々な条件に影響されるのですが、ここは筆者の経験から、だいたい平均するとこのくらいかな、というところで決めました。人によって大きく異なるところではあります。

まず、最も捕獲数が少ないラッキーなケースで、約450時間。日本生産性本部による「日本の生産性の動向 2015年版」によれば、直近の一般労働者(フルタイムの労働者)の年間労働時間が2026.5時間ですので、この最も恵まれたケースでも、ポケモン図鑑完成に年間労働時間の1/5以上を費やしていることになります。また、最もアンラッキーな38万匹捕獲した人の場合は、年間労働時間の実に9倍もの時間を費やしたことになります。

これが、一万人のちょうど真ん中、中央値である3万8千匹余りを捕まえたごく普通のプレイヤーになると、およそ1,920時間です。あまり残業をしない人の一年間の総労働時間くらいでしょうか。ポケモン図鑑の完成を目指すというのは、知らない間に一年がかりのプロジェクトにフルタイムで参加するようなものなのかもしれません。

また、中央値ではなく平均で見ると、総捕獲数は約4万8千匹となり、時間に換算すると2,400時間。平均的な労働時間の約1.2倍です。かなりの頑張り屋さんにも思えますが、実はプレイヤー全体の3分の1は、これよりも重労働なのです。

■ポケモン図鑑完成まで頑張るべきか?
このように、ポケモンをひたすら捕まえ続けてポケモン図鑑を完成させるというのは、生半なことではありません。年間労働時間くらいでコンプリートできればマシなほうで、運が悪いと何年も働くぐらいの労力が必要というのは、目標への思いを挫くには十分すぎるレベルです。また、ポケモンの卵を孵化させることでポケモン集めを効率化できるようになってはいるものの、孵化を効果的に行うには孵化器をたくさん購入する必要がありますので、「そこまでしなくても…」と考える人も多いでしょう。

当初の爆発的な人気から一転、アクティブユーザーが減り続けている最近のトレンドは、このゲームを何となく続けているような人たちが離脱したというだけではなく、「ポケモン図鑑の完成」のようなはっきりとした目標を持った人たちが、「さすがにもう頑張れない」と、堪えきれず徐々に脱落していく状況を反映しているのでしょう。

結局のところ、ポケモンGOを本当に長く続けられる人というのは、目標に固執せずに、のんびり楽しめる人だけなのかもしれません。

注: ポケモン図鑑のうち、未だリリースされていない一部のポケモンについては考慮していない。

【参考記事】
■日本が先進国で最下級だという「幸福度」ランクについて、みんなが勘違いしていること。
■日本がギリシャより労働生産性が低いのは、当たり前。
■報道の自由度ランキングは、どう偏っているのか。
■映画『マネー・ショート』を見ていて混乱するのは、「空売り」を予習したせいだ。
■日銀のマイナス金利政策は、大成功だが、大失敗だ。

五輪の金メダルは、どんどん重くなっている。

「いつもより重い気がする」

リオデジャネイロ五輪レスリング女子58kg級に優勝し金メダルを獲得した伊調馨選手は、メダルをかけた感想を訊かれ、そうコメントしました。

■重量化する五輪メダル
女性として世界で初めて五輪競技を四連覇する偉業を成し遂げた、その金メダルですから、特別な思いが詰まった「いつもより重い」ものであるのは当然です。ただ、今回の五輪では、伊調選手に限らずメダルを獲得した多くの選手が口々に、メダルが重い、重いと言っています。これはやはり物理的な重量そのものについてそう言っているということなのでしょう。

伊調選手が初めて五輪で優勝したのは2004年アテネ大会です。そのとき獲得した金メダルの重さは135gでした。以降、北京200g、ロンドン412gと、伊調選手が優勝を重ねるたびにメダルは重く大きくなり、今回のリオデジャネイロ五輪で夏季五輪としては初めて500gの大台に到達しました。この12年間で4倍近く重くなったわけです。

500gと言えば、500mlペットボトルほどの重さです。例えば、金、銀、銅をコンプリートした萩野公介選手の場合では、首から下げた3つのメダルの総重量は水が一杯に詰まった1.5Lペットボトルに匹敵します。これはかなり重たそうです。

■五輪メダル120年の軌跡
良く知られているように、史上初めて開催された五輪は1896年のアテネ大会です。この五輪ではまだ金メダルがなく、一位が銀、二位が銅で、三位以下にメダルはありませんでした。重さは47gで、リオデジャネイロ五輪と比べると1/10に満たない軽さ、直径も現在の約半分程度でした。それが120年かけて直径85mm、重量500gまで大きくなったのですが、その成長分のほとんどは実は比較的最近のものなのです。

グラフは青線が120年間、28大会分の夏季五輪のメダル重量の推移を示しています。各大会のメダルの重さはWikipediaを参考にしました。2000年代以前は全体として緩やかな増加傾向が見てとれますが、1900年代初頭には夏季大会のメダルが20g台だった時期もありました。この時期の金メダルは現在のように銀にメッキをしたものではなく高価な金そのものだったため、どうしても小さなサイズにならざるを得なかったのでしょう。

120年間のメダル重量の増加率を年率換算するとおよそ2%です。当初から10倍以上も重くなったとは言え、年率に換算するとその程度なのです。少し前までの、マイナス金利が導入される以前の住宅ローン金利と同じくらいでしょうか。

2%はまた、現在の黒田日銀が安定化の目標としている物価上昇率と同じです。つまり、日銀の狙い通り物価上昇率が2%で安定した場合、120年もすると物価が10倍超になるということになります。四半世紀もデフレ経済のもとでの生活に慣れてしまうと、120年という長期ではあっても、物価が10倍を超す状況は想像し難いものがあります。

■先行指標は「冬季五輪」
2004年アテネ五輪以降、急激に重量化してきた夏季五輪のメダルですが、まだしばらくはこのペースで重くなるかと言えば、恐らくそうはならないでしょう。今後は当分の間、500g前後のレンジで推移するのではないかと想定しています。上述の通り、500gというのは既に相当な重さなのです。

これに関しては、先行して500g超えを達成していた冬季五輪の最近の傾向を参考にすべきでしょう。冬季五輪では、2002年開催の米ソルトレイクシティ五輪で史上初めて500gを上回る567gのメダルが生まれました。その四年前に開催された長野五輪では261gでしたので、一度に二倍超までも重くなったわけです。続くトリノ五輪でやや揺り戻しがあったものの、その後はバンクーバー、ソチと、500g台で推移しました。夏季五輪についてもこれと同様の傾向を示すことになるだろうと予想しています。

先ほどの図では橙線で冬季五輪のメダル重量の推移を示していますが、全体的な傾向として、冬季五輪が夏季五輪に対する先行指標であるように見えます。冬季五輪のメダルが夏季五輪に先行して重量化したという見立てが正しいとすると、そうなった最大の理由はおそらく、冬季五輪で授与されるメダル総数が夏季五輪より遥かに少なく、重量化に要する追加的な費用が小さかった点でしょう。過去28回の夏季五輪での平均授与メダル数560個(リオデジャネイロ五輪では974個)に対し、過去22回の冬季五輪での平均授与メダル数は、130個と断然少ないのです。

先行指標である冬季五輪のメダル重量の推移を参考に2020年東京五輪での金メダルの重さを筆者なりに予想すると、トリノ五輪と同じパターンで一時的な揺り戻しによってやや軽量化し、450g程度になるのではないかと見ています。

伊調選手が東京五輪で五連覇を達成したなら、きっとこうコメントしてくれるはず。

「いつもより軽い気がする」

【参考記事】
■報道の自由度ランキングは、どう偏っているのか。
■日本がギリシャより労働生産性が低いのは、当たり前。
■日本が先進国で最下級だという「幸福度」ランクについて、みんなが勘違いしていること。
■映画『マネー・ショート』を見ていて混乱するのは、「空売り」を予習したせいだ。
■日銀のマイナス金利政策は、大成功だが、大失敗だ。

株式公開前にもかかわらず、LINE株に高値で買い注文が入った件。


今週7月14日に米国で、15日に日本で予定されているLINE株式会社のIPO(新規株式公開)に関連して、ブルームバーグにちょっと面白い記事が掲載されていました。

株式上場前ですので、当然まだ取引所での売買注文は受け付けられていないにもかかわらず、既に公開価格3,300円を15%も上回る高値での買い注文が入っているというのです。

(引用)『キャンター・フィッツジェラルドによると、13日のグレーマーケットでIPO価格を15%上回る3800円の値が付き、その後売り注文の値段は4000円を上回っている。チャーチル・キャピタルのセールストレーダー、トム・レスキ氏(シンガポール在勤)は買い値3900円に対し4200円の売り値があると明らかにした。LINEは15日に東京証券取引所1部に、ニューヨーク証券取引所には14日に上場する。』

(2016年7月13日付ブルームバーグ記事『LINEが上場前のグレーマーケットで人気、IPO価格を15%上回る』より抜粋。)

■公開前の価格は公開価格15%増し
記事のとおり、ある業者では3,800円の買い注文を受けた一方、4,000円を上回る高値での売り注文が入り、別の業者には買い値3,900円に対し4,200円での売り注文があったとのこと。ちなみに、3,900円は公開価格の18%増し、4,200円は同じく27%増しです。売りも買いも注文があったものの、記事の範囲では、売買はまだ出合っていないようです。

一般にはあまり知られてはいませんが、主に機関投資家の間での取引になるものの、人気の高い新規公開間近の株を、実際に株式公開されることを条件として公開前に取引することは珍しいことではなく、そうした市場はグレー・マーケットと呼ばれています。市場とは言っても、東証やNY証券取引所のようなオープンな取引所での市場取引ではなく、相対での取引です。

IPOのグレー・マーケットで取引されるのは公開前の株ですので、取引の対象は株式の現物ではなく先物になりますが、基本的には、IPOが実際に行われて、通常の市場で取引が開始されたところで決済されることになるのです。

公開前のLINE株にこれだけ高い値が付いたのは、それだけLINEの上場が注目され、人気が高いためです。今年のIT企業のIPOとしては世界最大級ということもあるのでしょう。IPOで買いたくても十分に買えなかった人が多く出たことで、グレー・マーケットでの高値での取引が行われやすくなったのです。

日本経済新聞の12日付記事によれば、公募株数に対する応募倍率は約25倍と人気を集めているのですが、そのうち国内の個人投資家が18倍、機関投資家が13倍程度であった一方、海外投資家の応募倍率は20倍台の後半と、海外での引き合いが特に強かったのでした。

比較として、昨年最も注目されたIPO銘柄であった日本郵政グループを見てみると、最も人気が高かったかんぽ生命でも応募倍率は15倍程度でした。ですので、LINEの約25倍と言うのは、極めて高い人気だと言えます。なお、日本郵政グループの場合、グレー・マーケットでの値付けは公開価格の5~7%増し程度だったようです。

■グレー・マーケット価格は初値にどう影響するか
一般に、グレー・マーケットでの価格は、株式公開後初値が上下どちらの方向で決まるかの目安になると考えられています。グレー・マーケット価格が公開価格よりも高ければ、当然、株価が上昇することが期待されているのです。逆も然りでしょう。グレー・マーケットでの価格が公開価格を15%も上回っていると伝えられているLINEの場合、同様にグレー・マーケットで高値がついた銘柄を参考にするのが良いでしょう。

その意味では、筆者自身が在籍した当時にIPOを実施した新生銀行は、良いサンプルと言えるかもしれません。新生銀行の場合、グレー・マーケット価格が公開価格の33%増しと高く評価されたのですが、公開後初値はさらに高く、公開価格の66%増しとなったのです。

仮に、LINEの場合も同様に公開価格からの増分がグレー・マーケットの2倍程度になると考えた場合、公開価格3,300円の約30%増しである4,300円程度が、LINE株の初値として相応しいということになります。あくまでも、新生銀行のときと同じパターンになれば、ということなのですが。

このように、当該株式への投資家の需給が反映されるグレー・マーケット価格は、上場後の株価推移を占う上での有用な材料となりえます。しかし、そこで反映されているのはあくまでもほんの一部の投資家による需給であることを忘れてはなりません。また、本来公ではない相対取引の情報であるグレー・マーケット価格は、誰かが何らかの意図のもとで漏らした、見せ板のようなものだと考えるべきなのかもしれません。

もう間もなく上場されるLINE株。果たして、初値はいくらになるのでしょうか。

【参考記事】
■日銀のマイナス金利政策は、大成功だが、大失敗だ。
■日本がギリシャより労働生産性が低いのは、当たり前。
■日本が先進国で最下級だという「幸福度」ランクについて、みんなが勘違いしていること。
■映画『マネー・ショート』を見ていて混乱するのは、「空売り」を予習したせいだ。
■英不動産ファンド2.4兆円の解約請求は、なぜ凍結されたのか。

ダイエットと金融市場の共通点


夏休みシーズン直前のこの時期、水着や薄着になったときに少しでも可愛く&格好良く見せたいなどの思いから、ダイエットに励んでいる方もたくさんいるのではないでしょうか。あるいは、筆者のように、医者から痩せるように言われて渋々ジム通いとカロリー制限を始めた人もいることでしょう。統計にもよるのですが、日本は女性の8~9割以上、男性の半数程度以上が、ダイエット経験者だと言われています。ダイエットに関していくつもウンチクが言えるダイエットの達人のような人も少なくないように思います。

■意外に変動の大きい健康指標“体重”
ですが、そんな達人たちですら案外やってしまいがちな間違いが、一つあります。それは、日々の体重変化につい一喜一憂してしまうこと。ダイエット経験者であれば、おそらく誰もが、体重変化に過度に反応すべきでないということを頭では理解しています。にもかかわらず、気がつくと、一日に何度も体重計に乗っていることがあるのです。

体型や体の大きさ等にもよりますが、朝起きて夜寝るまでの間にも体重が1~2kg程度変動することは珍しくないと言われています。トイレに行けばその分体重が減るし、何か口にすればその分増える。そんなことは当たり前だし、一々計っても仕方がないのは重々承知のはずなのに、何故か気になってしまう。それが原因で、結果的にダイエットがうまくいかなくなることもあるでしょう。また、あまりにも体重変化に囚われ過ぎてしまうと、食事をすることすら怖くなってしまうこともありえます。これは非常に危険なことです。

そうならないためにも、ダイエット時は一日一回、毎回必ず同じ条件(時間、服装等)で計測し、その結果に一喜一憂しないことが大切なのです。体重は、一定せずブレやすく、ある程度長めのスパンでその変化を把握すべき健康指標なのです。過去に10kg超のダイエットを二度成功したことのある筆者の経験では、体重の推移は概ね1週間程度のスパンで把握していくのが良いようです。具体的には、毎日、その日までの最近7日間の体重を平均したものを指標とすると良いでしょう。

このように対象範囲を少しずつずらしながら平均をとっていく指標を“移動平均”と言いますが、株価推移等を見る際にも頻繁に用いられる便利な指標なのです。

■経済指標に一喜一憂する投資家たち
実は、数字に一喜一憂するというのは、金融市場の投資家たちも同様です。例えば、先週7月8日に米雇用統計が発表されましたが、これがポジティブなサプライズとなり、米国の株式市場は一転明らかな上げ相場となっています。現地時間7月12日午前には、NYダウが過去最高値の1万8312ドルを記録しました。

米雇用統計では、日本でもお馴染みの失業率等も発表されているのですが、発表される雇用関連指標の中で最も注目されるのは失業率ではなく、“ノンファーム・ペイロール”と呼ばれる「非農業部門雇用者数の増減」なのです。この指標は、金融市場での投資判断のための単独の材料としては、おそらく世界で最も重要なものの一つです。

最近4カ月分のノンファーム・ペイロールは、次の通りです。

年 月 : 速報値(市場予想) 翌月修正値(直近修正値) サプライズ
2016年3月: 21万5千人(20万人) 20万8千人(18万6千人) ポジ小
2016年4月: 16万人(20万7千人) 12万3千人(14万4千人) ネガ中
2016年5月: 3万8千人(15万5千人) 1万1千人(1万1千人) ネガ大
2016年6月: 28万7千人(17万5千人) -(-) ポジ大
(「Yahoo!Finance」及び「米労働省労働統計局」資料より。)

7月8日に発表された6月の雇用統計が、市場予想17万5千人増に対し速報値が28万7千人増と11万2千人も多かったことからポジティブなサプライズとなったわけですが、金融市場の投資家は、単に大きな値だから反応するというわけではなく、市場の予想と比べてどうなのかというところを見ていました。予想と結果が大きく乖離したことで、サプライズが生まれたのです。

ところで、6月のポジティブ・サプライズは、冷静に見れば、単に先月のネガティブ・サプライズの揺り戻しと考えることもできるかもしれません。先月は速報値が市場予想より12万人近く少ない3万8千人だった上に、その数字は今回さらに小さく修正され、1万1千人であったと発表されました。二カ月トータルで考えると、実は、市場予想とあまり変わらない結果だったのです。

(注:ノンファーム・ペイロールの過去の値は頻繁に修正されます。前月分の修正まではフォローする場合が多いですが、重要な指標のわりに、過去分の修正については何故かあまり省みられることはありません。)

■経済指標の“ブレ”に一喜一憂する理由
図は、上のグラフがノンファーム・ペイロールの市場予測と速報値を長期間観測したもので、それぞれ値が上下に変動する部分をフィルタリングにより取り除いた“トレンド成分”のみを比較しています。

このグラフにより、上下に変動するブレの部分を除けば、実は、市場予想と速報値が同じような動きをしていることがよく分かります。すなわち、毎月雇用統計が発表される度にサプライズの水準によって反応する金融市場は、単に上下にブレるノイズに反応しているだけなのだとも言えるのです。

下のグラフは、サプライズ、即ち予想と速報値の差異と、速報発表翌月の修整幅の分布を、それぞれ示しています。予想と速報値の差異の方が全体に大きく広がり、マイナス方向にやや偏りが見られますが、速報発表翌月の修正はポジティブ方向への変更が多くなっており、平均的には、ネガティブなサプライズは翌月にやや緩和される傾向があることになります。

このように、指標のトレンドではなくブレて変動する部分に過剰に反応するという点では、ダイエットに励むあまり日々の体重変化に過剰反応するダイエット女子(男子)と金融市場には、それほど大きな違いはありません。しかし、その判断が合理的かどうかという点においては、両者は大きく異なっているのです。

上述のとおり、体重変化に反応してしまうのは合理的ではありませんが、投資家が経済指標のブレに反応するのには、ちゃんと理由があるのです。投資家にとって重要なのは、自分がどう思うかではなく、他の市場参加者がどう反応するだろうか、ということです。他の人が買うだろうと思えば、基本的には自分にとっても“買い”が正解だし、売るだろうと思えば、自分も“売り”を選ぶのが自然なのです。

金融市場は、本当の意味で合理的な市場となっているわけではありませんが、それぞれの投資行動に関しては、所与の条件の下で、合理的な判断を積み重ねているのです。

【参考記事】
■日銀のマイナス金利政策は、大成功だが、大失敗だ。
■日本がギリシャより労働生産性が低いのは、当たり前。
■日本が先進国で最下級だという「幸福度」ランクについて、みんなが勘違いしていること。
■映画『マネー・ショート』を見ていて混乱するのは、「空売り」を予習したせいだ。
■英不動産ファンド2.4兆円の解約請求は、なぜ凍結されたのか。

英不動産ファンド2.4兆円の解約請求は、なぜ凍結されたのか。


先月6月23日に実施されたEU離脱の是非を問う英国民投票は、EU離脱派が完勝した。事前の予想をくつがえす結果であったことから市場への影響も大きく、円高が大きく進行し、株価は暴落。既に長期までマイナス圏に沈んでいた日本国債の利回りは、さらに一段深く沈みこむこととなった。

このサプライズで大きな影響を受けたのは、もちろん当事者であるイギリスの市場も同じだ。開票直後の変化を見ると、為替が対ドルで13%程度のポンド安となった一方、イギリスの株式指数FTSE250は14~15%程度下落した。中でも、不動産不況への懸念から住宅建設関連株の下落幅は大きく、Bloombergが提供する住宅建設業(Homebuilders)インデックスは、開票前と比べ約4割も大暴落したのだ。

■不動産ファンドの解約請求が殺到
イギリスの不動産市場の不透明感から売られているのは、住宅建設関連株だけではない。Bloomberg等の金融情報メディアの報道によれば、目下、イギリスの不動産ファンドへの投資資金に解約請求が殺到しているのだと言う。

(引用)『英国では大手不動産ファンドの対顧客取引停止が相次ぎ、合計約180億ポンド(約2兆3600億円)の資産が凍結または動きが制限された。英国の欧州連合(EU)離脱決定を受けて投資家が同国の不動産投資から手を引こうとし、解約請求が急増している。
「リーマン破綻前夜のベア・スターンズのサブプライムファンドを彷彿(ほうふつ)とさせる」と、ジャナス・キャピタル・グループのビル・グロース氏がブルームバーグ・テレビジョンとのインタビューで述べた。「金融システムは流動性が適切な場所に流れ込むようにできていない。不動産ファンドはほんの一例で、恐らくほかにも資金が流出する分野があるだろう。懸念すべきことだと思う」と語った。』

(2016年7月7日付ブルームバーグ記事『2.4兆円の英不動産ファンドが凍結-リーマン前夜のサブプライム彷彿』より抜粋。)

解約請求の急増に対処するため6日までに解約処理を一時的に凍結することを決めた英不動産ファンド運用会社は7社。その金額は180億ポンド(約2.4兆円)にも上る。解約処理の凍結がこれほど広がったのは、それだけ多くの解約請求が集中したということだろう。

同記事では、そうした解約請求急増の原因は、『ロンドンのオフィス価値が英国のEU離脱から3年以内に最大20%下落する恐れがある』とのアナリストらによる警告だとされている。これは、おそらく間違いではないだろう。

だが、逆に言えば「3年以内に最大でも20%しか下落しない」と考えられる状況で、ここまで極端なパニック売りが進むというのは、やや違和感もある。肝心の投資先である不動産自体の経済的価値が、それほど急に目減りするはずもないのだ。

■流動性の限られた市場と美人投票
通常、投資ファンドに投入された資金は、キャッシュとして保有される一部金額を除き、そのほとんどが投資対象の購入に充てられる。相対的に少額であるキャッシュは、解約請求された投資口の償還や、費用の精算等に使われる。

ここで、ファンドの投資対象が市場で適時に売却可能な株等の有価証券であれば、ある程度の解約請求があってもキャッシュに換価して払い戻すことができる。ところが、投資対象が不動産の場合、すぐに適当な値段で売却してキャッシュに換価するというのは難しい。そうした換価のしやすさを「流動性」と言うが、流動性がかなり限定的なのが、不動産ファンドである。

投資家は、当然そうした事情は分かっている。そして、同時に、他の投資家も同様にそうした事情を分かっていることを知っているので、自分以外の他の投資家が皆、おそらく急いで解約しようと考えるであろうと考えるのである。当然、自分自身も同様に解約を急ぐべきと判断するだろう。

金融市場では、誰が最も美人かを当てる「美人投票」と同じで、皆が選ぶ選択肢こそが“正解”なのだ。

■解約請求の凍結は必要か?
ファンドによる解約請求の凍結は、投資家からの信頼を損なうものとして批判する向きは少なくない。だが、筆者は、今回のようなケースでは解約請求の凍結は不可避だったと考えている。自分自身、過去に投資先のファンドが解約処理を停止したことで大きな不利益を被ったこともあるが、その処理については納得するしかなかった。

解約請求の凍結は、何もファンド側の都合だけを考えて行っているわけではない。そもそも限られた流動性の中で解約に応じるだけのキャッシュが準備できない場合もあるだろうが、ほとんどの場合、ある程度余裕がある段階で凍結を決めるはずで、そうした措置を早めに講じるのは実は投資家保護の意味合いもある。投資規模が縮小するにつれ固定費負担が大きくなって投資利回りが低下するため、保有資産の状況に拘わらず、逃げ遅れて残された投資家だけが大きな損失を出してしまうことになるからだ。

また、仮に日々の運転資金も賄えないレベルまでキャッシュを払い戻したとすると、おそらくいずれファンドはデフォルト(債務不履行)してしまうだろう。そうなっては元も子もないのは、明らかだ。そうした状況は、何としても避けなければならないだろう。

「“限定的な流動性”は、市場が安定している通常時には一定の安全弁として働く一方、ひとたび大きなショックが起こってしまうとそれを増幅させる装置となってしまう」ということが、今回の騒動でも再確認されたのである。

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■日本が先進国で最下級だという「幸福度」ランクについて、みんなが勘違いしていること。 
■映画『マネー・ショート』を見ていて混乱するのは、「空売り」を予習したせいだ。
■スター・ウォーズを特別料金にするのはともかく、日本がそもそもダントツに映画が高い件。

馬主で証券アナリストの本田康博が考えてみます。